コーマック・マッカーシー著、黒原敏行訳
『すべての美しい馬』の主人公だったジョン・グレイディの旅がついに終わる。舞台はメキシコ。グレイディは一貫して、どこにもない場所を探し求め、手に入らないものを求める宿命の人だったように思う。彼はアメリカでは既に失われた理想の土地を求めてメキシコにくるが、彼の思うメキシコの姿は、最早現実のメキシコの中にはない。また、彼が恋する女性も、実際には彼が思うところの女性ではなかったのかもしれない。時代おくれの人、この世にしっくりこない人としての彼が迎える結末は、やはりこういう形しかなかったのだろう。ラストは痛切だ。そしてメキシコの風土の描写が例によってすばらしく、この土地の前では人間1人の死などなんということはないという突き放された感じがする。