実業家のアール・ブルックス(ケビン・コスナー)は美人の妻と娘と共に順風満帆な生活を送っていた。しかし実はかれは連続殺人犯。今夜もセックス中のカップルを殺してご満悦だった。しかしこのカップル、カーテンを開け放してことに及ぶ習慣があった為、盗撮していた向かいのアパートの男に、室内にいるブルックスの写真も撮られてしまったのだ。
 殺人鬼にケビン・コスナー、彼を追う捜査官にデミ・ムーアを起用。そして映画自体はB級臭がプンプン。これは「かつての大スターが今は・・・」というしょんぼり気味の映画なのだろうかと思っていたら、意外にも面白い。1800円で見たらモヤモヤするかもしれないが(笑)、サービス料金で見ればそれなりに満足感が得られそうだ。映画前半は正直言って流れがかったるいなーと思っていたのだが、ブルックスの娘が絡みだす後半は、俄然おもしろくなる。
 ブルックスは確かに連続殺人鬼ではあるのだが、同時に良き夫であり、娘を愛する父親である。彼はこれまでのその両面を両立させていたのだが、娘が起こしたトラブルによって、殺人鬼として保身を図ると娘が窮地に立たされ、娘を守ろうとすると殺人鬼としての立場が危うくなるというアンビバレンツな状態に陥ってしまう。また同時に、社会的な道義を通すかあくまで娘を守るかというアンビバレンツも生じる。同義的にって、そもそもあんた殺人犯だよ!と突っ込みたくなるが、本人至ってまじめである。殺人鬼であるという点以外は、かなりきちんとした人物である。「娘のことを考えるとここはひとつガツンと言わねば・・・」と父親らしく思うと同時に、「あー人殺してー」と思っているわけです。このギャップがユニークだった。
 通常のサスペンスドラマ(主人公が犯人の場合)だと、主人公が行う犯罪が中心にあるのだろうが、本作の場合、殺人事件事態はあまり重要ではない。見ていて「えっどうするの?どうするのよ!」とワクワクするのは、むしろ父親として彼がどうするのか、というところなのだ。殺人鬼としての彼は父親としての彼に勝つのか負けるのか両立するのか?
 さて、ブルックスの脳内人格としてウィリアム・ハートが出演していて、もう殺しの誘惑には屈しないぜ!と決意するブルックスをYOU殺っちゃいなよ!とけしかけるのだが、いわゆるジキルとハイドではなく、脳内兄弟というか、頭の中を整理するためのディスカッション相手というところもちょっと面白い。人格が分裂しているというわけではないのでストーリー上あまり必要のない存在ではあるのだが、2人(客観的には1人)でくだらない冗談言ってケラケラ笑っているところとか、ビジュアルとして面白かった。