いやー面白かった!こんなに傑作なのにゲットしたアカデミー賞が主演男優賞と撮影賞のみとは、PTAは死ぬほど悔しいだろう。間が悪かったよなー。昨年の公開だったらあるいは・・・。いやしかし傑作・そしておそらく渾身の一作であるということに違いはありません。ポール・トーマス・アンダーソン監督といえば「マグノリア」のようなトリッキーな群像劇という印象があったが、本作ではまるで古典作品のような(流れないエンドロールが象徴的)、今までの技法を投げ捨てた直球勝負を挑んでいる。
 石油採掘業者のダニエル・プレインビュー(ダニエル・ディ=ルイス)は一発当てる為、幼い息子を連れてアメリカ中を飛び回っていた。1人の青年から「うちの実家のあたりには石油が埋まっている」と聞いたダニエルは、早速土地を買占めに動く。
 主人公を演じるダニエル・ディ=ルイスがぎとぎと感あふれる大熱演である。本作はダニエル・プレインビューという男が成り上がっていく一代記であるのだが、「男の一代記」という印象を深めたのはディ=ルイスの存在感の濃さによるところが少なからずあると思う。これはアカデミー取るのも納得。ちょっとオーバーアクション気味なのがちょうどいいのだ。宣教師役で共演しているポール・ダノも相当うまいのだが、ディ=ルイスの得体の知れない迫力の前にはインパクトが薄れてしまったか。
 さて、プレインビューはひたすら富を追い求め、時に非情であるが、いわゆる悪人ではないし怪物的、悪魔的人物でもない。彼は彼なりに息子や仲間を愛する。興味深かったのは彼の愛のあり方だ。彼は息子をかわいがり仲間も結構大切にするが、自分の役に立たないと判断すると即刻切って捨てる。彼の周囲の人に対する愛は、使い慣れた道具を愛するような愛であるように思った。愛着のある道具だから壊れたら悲しいし捨てるのは惜しいが、替りがないということはない。そもそも道具を壊してしまったのは自分の責任でもある。自分に背を向ける息子を見送るプレインビューは、悲しいというよりむしろ悔しいのではないかと思った。
 自分に役立つものを愛し自分に背くもの・役に立たないものを切り捨てるという姿勢は一貫して変わらない。この一点では、プレインビューは実に筋が通っている。また、もう一点彼が実に筋が通っているのは、目に見えない・あいまいなものは信じないという点だ。だから彼にとって神は存在しない。物語は、一見、物欲の権化であるプレインビューと神の教えを(胡散臭いけど)説くイーライとの対決とも見えるが、そもそもプレインビューにとって神はいない。イーライと同じ土俵には乗っておらず、勝負になりようがないのだ。私は本作を見てやたらと感動したのだが、プレインビューのブレのなさに感動したのではないかと思う。
 もっとも、強欲という意味では、宣教師としての尊敬や名声を求め派手なパフォーマンスを行うイーライも似たり寄ったりだ。しかし尊敬も名声も目に見えない。あるシーンが反転されるラストの展開は、目に見えるものだけを追ったプレインビューの勝利宣言だろう。仲間も家族もなくし果てはあんなことになって彼は本当に幸せなのか?と問う人もいるだろうが、彼は幸せなのだと思う。あれ、全然転落じゃないよなー。すっきりした顔してるもんなー。重厚ではあるが、決して陰鬱な映画ではない。むしろひとつの道を邁進する男に対して喝采したくなる、爽快さがあった。