弁護士事務所で研修中の短大生メラニー(デボラ・フランソワ)は、弁護士の妻であるピアニスト・アリアーヌ(カトリーヌ・フロ)に子守として近づく。実はメラニーは子供の頃ピアノのコンテストで、アリアーヌの行為で気が散り、ピアノの道を断念していたのだ。演奏する時の譜めくりもすることになったメラニーを、アリアーヌは信頼していくが。監督・脚本はドゥニ・デルクール。
 予告編を見た時点で想像したのとほぼ同じストーリー。映画の内容に忠実な予告編ではあるのだが、少々ネタバレ気味だし、映画本体のサスペンスとしての面白さを削いでしまったのは残念だ。思いっきりミスリードさせるような予告編でもよかったと思う。
 メラニーはアリアーヌに、ある目的のために近づく。メラニーは殆ど表情を変えず、服装はやぼったい。体型もちょっとぼってりとした印象なのだが時々すごく色気があるという、得体の知れない女をフランソワが好演していた。内に秘めているものがあるはずなのだが、それが殆ど外見に出ないことで、不気味さが強まっていた。歩き方にちょっと特徴があるのも面白い。
 また、アリアーヌ役のフロは、「かわいいおばさま」を演じると実にキュートでハマるのだが、本作のような神経質な役柄には、ちょっとミスマッチかなと思った。もちろん上手い女優なのでそれなりに見られるのだが。このあたりは個人的な好みもあるとは思う。私はコメディタッチの演技をしているフロが好きなので。
 本作はサスペンス映画ではあるのだが、本来はもっと怖くなるはずだったのではないかと思う。しかし怖がらせるにはあっさりとしすぎている。メラニーが何の目的でアリアーヌに近づいたのか最初から分かる構成だし、アリアーヌがメラニーに依存していく過程が順調すぎで、そんなに簡単にゆだねてしまうものだろうかと思ってしまうのだ。淡々としているので、見る側がそういった余計なことを考える間が出来てしまうのかもしれない。また、メラニーがアリアーヌのことを恨む原因も、ちょっと弱いように思える。ここが本作の一番の難点なのだが、子供時代のメラニーの演奏が下手なのだ。アリアーヌが何をしようが、これは落選するに決まっているなと思ってしまう。「ピアノへの道を閉ざされた!」とメラニーが思っていたとしたら完全に逆恨みだ。それはそれで、思い込みによる恨みの怖さとか、またピアノに対する評価は別として「憧れの人が私を見てくれなかった!」という恨みだとすれば納得がいく。が、そのあたりがどうも説明不足で、どう解釈すればいいか迷ってしまった。思い込みが強い、強い執着を持つ人にしてはメラニーのテンションが低いので、あまり怖くないのだ。
 女2人の秘めた感情という、相当ドロドロにできそうな題材をあえてあっさり描いたのか、それとも監督の作風があっさり風味なのか。どうも後者のような気がする。他の監督が撮ったら、もっとスリリングで怖い作品になったのではないだろうか。