ヘンリー・ダーガー(映画内では関係者の記憶に基づきダージャーと発音)は、18歳の頃からひっそりと「非現実の王国で」という世界最長小説と、数百枚に及ぶ挿絵を残した人。生きている間は全く世に出ず、彼が死んでからアパートの大家が作品を発見、作品世界が知られることになった。日本でも昨年個展が開催され、注目を集めている。そのダーガーの生涯と作品に迫ったドキュメンタリー。
 ダーガーの生涯を追うといっても、材料となる情報は極端に少ない。晩年に至るまで人付き合いが殆どなかった為、大家や近所の住民も彼の生い立ちや人となりについては殆ど知らない。彼は自伝を書き残しているのだが、あくまで自己申告なので、どこまで信用していいものかわからない。そういう状況でダーガーがどういう人だったのかという点に突っ込んでいくのは、ちょっと苦しいのではないかと思う。彼のことも彼の作品も知らない人への入門編としてはいいかもしれないが、既に知っている人にとっては物足りないだろう。
 本作の目玉は、彼の作品をアニメーション化していることだ。楽しみにしていたのだが、実際に見てみると確かによく出来ていて違和感はない。しかしおおすごい!素敵!というインパクトはいまひとつ。「わー技術の進歩ってすごいね・・・」と感心することは感心するが、絵が動いていることに対する感動はあまりなかった。止め絵だからこそ美しかったのかもしれない。ただ、雲の動きとか雨が降っている様子とか、いわゆるキャラクター以外の部分は結構魅力的だった。なんというか、ずるーっと動く感じがよかった。
 何にせよ材料不足の感は否めない。ダーガーの実像にもっと切り込めるだけの材料があれば、ともったいないようにも思う。