マークース・ズーサック著、入江真佐子訳
 第二次大戦中のドイツ。死神が語る「本泥棒」の少女リーゼルの物語。時代背景、そして死神が語り手ということで、初っ端から不吉な空気に満ちているし、ある程度結末の見当もつく(いやそれ以前に死神が先回りして登場人物の末路を語っちゃったりするんだが)。故に面白いことは面白いが読み進むのに気が重い作品でもあった。リーゼルは文字を覚え本を読むことによりどころを覚える。それが「本を盗む」ことに結びついていくのがユニークだ。ただ、書物に魅力に取り付かれることと、書物を盗むこととがうまく結びついておらず、「本泥棒」という言葉のイメージが先行しているのではないかという印象を受けた。むしろ、文字を覚え本を読むという行為を介した養父やユダヤ人青年との交流、それによってリーゼルも相手も支えられているという所が印象に残る。リーゼルの養父母の造形は特に良い。狂気に満ちていく世界の中で、最後まで普通の人としてまっとうであろうとする姿が、物語の良心となっている。