アンリ・ユッソン(ミシェル・ピコリ)は、コンサート会場で、かつての親友の妻、今は未亡人となったセブリーヌ(ビュル・オジエ)を見かける。彼女は逃げるように立ち去った。アンリは彼女が出てきたバーで滞在しているホテルを聞きだし、会おうとするがまたしても逃げられる。アンリは彼女の秘密を知っていたのだ。
 マノエル・ド・オリヴェイラ監督の新作(といっても製作は2006年)は、なんとルイス・ブニュエル監督の傑作『昼顔』の38年後という設定。いいのかよそれ!とうっかり突っ込みたくなるが、オリヴェイラ監督ほどの巨匠(なんと今年100歳になられるそうです)ともなれば許されるのでしょう。舞台はパリだが昔ながらの街並みのみを映し、豪華な使い方をされるクラシック曲とも相まって重厚な雰囲気をかもし出している。
 さてこの映画、映像は重厚かつ上品なのだが、アンリがやっていることは至って俗っぽい。彼はセブリーヌが夫を愛していながらも裏切り、娼婦として他の男と寝ていたことを知っている。彼はその秘密によってセブリーヌを脅迫しよう、ないしは彼女をどうこうしようというのではない。セブリーヌは、アンリが友人であった夫に自分の秘密を話したのではないかと疑っている。そして、話したのかどうかをどうしても知りたいと思っており、アンリと会うことをしぶしぶ承諾する。そんな彼女の前でアンリは答えを明示せず、ちらつかせるだけちらつかせて彼女をやきもきさせるのだ。要するにいじめて楽しむんですね。(アンリの弁によれば)『昼顔』は若い女性のマゾヒズムとサディズムの物語だったが、本作は年配男性のサディズムの話ということになるのだろうか。セブリーヌ役としてかつて演じたカトリーヌ・ド・ヌーブを起用しなかったのは、諸般の事情があるのだろうが、ド・ヌーブだと威風堂々としすぎていていじめられても屁とも思わなそうだからだったのかも。
 もっとも、必ずしもアンリがセブリーヌより強い立場にいるとは見えない所もある。双方老いてはいるが、なんかセブリーヌの方が人生充実してそうなのね(笑)。経済的にも恵まれているし、不安にさいなまれるだの何だの言っても、ショッピングも旅行も楽しんでいるだろうこれは・・・という雰囲気がするのだ。対してアンリはアル中で健康状態もよくなさそう(ゼイゼイ言ってる)。セブリーヌにちょっかいかけたのも、あまりにも暇かつ寂しかったからじゃないのと思えてくるのだ。全般的に、女性の方が老後を楽しんでそうですよね。