天涯孤独でブサイクな女の子・よし子(野嵜好美)。町を離れていた彼女が急に戻ってきた。「かっこいいドイツ人がいるっていうから」というのがその理由。そのドイツ人に近づくために植木屋に弟子入りしたり、歌手デビューを目指してオーディションを受けたり、小学生にリコーダーを教えたりと、とんちんかんではあるがパワフルなよし子の日々。
 監督はこれが長編2作目となる横浜聡子。日本映画界に将来が楽しみな才能がまた一つ出てきたのは喜ばしい限りだ。なにしろ生き生きとした、躍動感に溢れた作品だった。よし子は考えるより先に動いてしまうような女の子だし、彼女の周りの小学生たちがこれまたよく動く。子供を撮るのが上手い。どの程度演技指導しているのかわからないが、ごく自然に遊んでいるように見えるのね。ドッジボールにしろマンガ読むにしろ、遊びの本気度が高いように見える。多分、実際に遊ばせてドキュメントを撮るように撮ったのだろうが、自然に遊ばせること事態が難しいはずだから、子供とのコミュニケーションに長けた人なのではと思う。
 よし子は人のトラウマ話を聞いて、それを歌にする。同級生も小学生もドイツ人もそれなりにトラウマとか悩みとかを持っているが、皆あっけらかんとしている。よし子自身も実は家族にまつわる蟠りを持っているが、多分それをトラウマとは考えていないし、それをものともしない。現実と上手く折り合いが付けられない、社会に溶け込めない人ではある(子供であるとも言う)のだが、それで内向きになるのではなく、見当外れではあってもばんばん外へ向かっていくのが、ちょっと最近の日本映画にはいなかったヒロインだなぁと思った。それがなんぼのもんじゃい!と吹っ切っていく力強さが頼もしい。
 各所での監督へのインタビューを読むと、内省的なだけの作品は作りたくなかったとのことだが、そのやり方でOKですよ!ばっちりだと思います。深刻なことを深刻な顔をして語ったりしない姿勢には好感を持てる。深刻な悩みがあっても、お腹は空くしお金はほしいしモテたい、お前トラウマ云々より先にやることあるだろ!という実も蓋もないところが実に清々しかったです。
 よし子と、彼女の友人である女子高生・まきとの関係もなんとなく良い。特に仲がいいというわけではなく、よし子がルックスの良いまきを自分の代わりにオーディションに行かせたり、まきはまきでドイツ人とあっさりできちゃってたりと、色々火種はあるのだ。しかしそれを双方あっさりスルーし、なんだかんだ言ってもつるんでいる。よし子はまきにおそらくコンプレックスを感じているが、そのことでまきに嫌がらせをすることはない(扱いはかなりぞんざいだが)し、まきはまきで、最終的にはよし子を心配している。このうっすらとややこしい関係が実に女子っぽくて、いい味出していた。