辞職に追い込まれた大臣ヴァンサン(セヴラン・ブランシェ)。家財は没収され妻は出て行った。頼みの綱の元妻にもそっぽを向かれた彼だが、母親と昔の友人達は彼を見捨てなかった。
 オタール・イオセリアーニ監督の新作映画である。この監督の作品、見よう見ようと思いつつ、実は初めて見る。肩の力が全然入っていなくて、幸せな気持ちになった。小さなエピソードの積み重ねで構成されているのだが、シークエンスのひとつひとつがとてもチャーミングだ。普通にごはん食べたりお酒飲んだり(やたらと飲むんですこれが)という、なんてことのない絵が実に良い。イオセリアーニは、絵で見せる監督なんだと思う。会話の妙というより、動きの間合いとか人と人の立居地の関係、動作の面白さが際立っていた。ヴァンサンがローラーブレードで遊んでいる(そして通行人の迷惑になる)ところとか、バーの壁に店主と子供が絵を描いているところとか、字幕なくても面白いもの。多分、全編字幕がなくてもなんとかなるのではないだろうか。展開としては唐突でコントみたいなところもあるのだが、絵としての面白さ、言葉に頼らない映画として考えると納得。ドタバタ劇はセリフがなくても分かるもんね。ヴァンサンが気持ちを落ち着ける為に三点倒立するのも、ビジュアルとして分かりやすいからかしら。また、彼の周囲の人間にしても、何をやっている人なのか、具体的にどういう間柄なのかはあまり説明されない。しかしそれでも物語として成立している。
 ヴァンサンは地位も財産も無くしたが、さほど落ち込む様子も見せず、飄々と新しい生活を始める。彼の生き方は監督の理想なのだろう。確かに、のんびりと楽しそうで羨ましくなる。一歩間違えば単なるダメ男なのだが(笑)そうは見えないのは、ヴァンサンが常に友人や家族に囲まれているからかもしれない。他人に好かれているってことは、人徳がある・愛嬌がある、つまりダメ人間ではないってことですもんね。しかしちょっと女性にモテすぎではないかなーとは思いますが(苦笑)。妻と愛人と母親が同席してにこやかにお食事ってありえないよな。まあそのへんは男の夢ってことなんでしょう。