歌手・エディット・ピアフの生涯を、「愛の賛歌」「バラ色の人生」等名曲盛りだくさんで映画化した作品。監督・脚本はオリヴィエ・ダアン。主演のマリオン・コティヤールが、若いピアフから晩年のピアフまで一貫して演じている。若い頃はともかく、腰が曲がりリウマチに悩まされるようになった晩年の演技がすごい。コティヤール自身はさほどふけ顔というわけでもなく、むしろキュートな顔立ちなのだが、ここまで老け役ができるのか!と唸らせられるものがあった。
 しかし本作は、役者、そしてもちろん音楽は見ごたえ・聞き応えがあるのだが、エピソードの組み立て方がいまひとつ分かり難かった。時間軸に沿った流れではなく、若い頃と晩年とが交錯するような形で次々とエピソードが明かされていき、徐々にピアフの全体像が見えてくるという、ちょっとミステリ的な構造なのだが、この構造に監督の手腕が追いついていないように思った。終盤に、ピアフの人生にとって非常に重要であったろう事件が明らかになるのだが、これ普通だったらものすごく盛り上がる所なのに、そこに至るまでにあっちこっち引っ張りまわされるので、一つ一つのエピソードのインパクトが薄れてしまったように思う。どのエピソードに関しても、もっと上手い見せ方があるんじゃないかなぁと惜しい。
 また、彼女を支える仲間たちも誰がどういう人なのかあまり説明されない(一応説明はあるんだけど、さらっとしすぎて忘れちゃうのよね・・・これは私の記憶力の問題でもあるが)。最後まで「えーとこの人誰だったっけ?」とすっきりしないところもあった。エピソードにしろキャラクターにしろ、印象付けや、この人はこういうポジションの人ですよという説明があっさりしすぎだったように思う。ピアフの人生について詳しい人なら別に問題ないのかもしれないが、ピアフという歌手について名前程度しから知らない状態で見ると、ちょっと厳しいかなと思った。
 さて、この映画を見る限りでは、ピアフは実に面倒くさい、困った人だったようだ。下品だしわがままだし、晩年まで悪癖を改めようとはしない。子供時代は恵まれず、若い頃も大変苦労した人なので、これだけ苦労していたらちょっとは学習するんじゃ・・・と思うんだけど全然学習しないし、年取っても人間が全く丸くならない(笑)。周囲の人間は大変だったと思う。しかし不思議なことに、彼女の傍には常に彼女を愛し、支えてくれる人たちがいる。子供の頃には身を寄せていた売春宿の娼婦たちが、若い頃は妹分が、歌手としてのし上がっていく過程ではスタッフたちが。やはり、才能だけでなく何か人間的な魅力があった人だったのかもしれない。彼女には生涯最大の恋人・ボクサーのマルセルがいたが、彼よりも仕事のスタッフらの方が、彼女を愛し理解していたように見えるのだ。
 前述した、終盤で挿入される重要なエピソード。(ネタバレになるので曖昧な言い方になりますが)ここで得られなかったものを埋め合わせる為に人に愛を注ぎ込み、注ぎ込まれたいという感情に突き動かされていたのかとも思うし、これがひっかかっていたから無茶苦茶な生活を続けていたのかとも思うと、何か腑に落ちるところはある。最後に腑に落ちさせる構造になっているだけに、途中の見せ方のヘタさがなお残念。