世界一有名なウサギ、ピーター・ラビットの生みの親であるビアトリクス・ポターの伝記映画。ポター役はレニー・ゼヴィルガー、彼女の担当となった出版人ノーマンにユアン・マクレガー。監督は『ベイブ』のクリス・ヌーナン。
 大分ざっくりとした映画で、いわゆる傑作・名作の類ではない。しかしとても好感がもてる。特に30代独身女性には強くお勧めしたい。色々身につまされると同時に励まされました。ノーマンとの身分違いの恋というロマンス要素も大きいものの、それはこの映画の主軸ではないと思う。
 時代は1902年。ヴィクトリア朝の封建的な空気がまだ色濃く残る時代だ。この時代、女性、特に上流階級の女性が就業することはなかった。生活していくには結婚して夫に養ってもらうしかない。30歳過ぎて独身のビアトリクスは親のすねかじりに他ならなかったわけだ。ベストセラー作家として余裕で印税生活ができるようになっても、彼女の母親は彼女を一人前の人間とは認めなかった。女性が生きていく上での選択肢が限られていた時代に、作家として活躍し、後に湖水地方の農場を次々と購入して環境保全に取り組んだビアトリクスは、全く例外的な人物だったのだろう。先人がいない中、なんとかして自分があるべき姿であれるように格闘していく女性の姿がこの映画の軸にあるし、その格闘は現代にも通ずるものがあると思う。しかし、あの時代に生まれなくて本当によかった私・・・
 さて、劇中にはポター作品の絵を繊細に再現したアニメーションが挿入されている。ピーターやジェマイマたちが実際に動くわけだ。予告編を見た時は、この演出は余計なんじゃないかなと思っていた。自分が描いた絵に向かって「シッ!じっとしていて!」と話しかける30代女性って、ちょっとイタいでしょ。でも映画本編を見たら、必要な演出だったんだと納得した。劇中でも何度も触れられるのだが、ビアトリクスにはずっと友達がいなかった。彼女の考え方や作品に対する両親(特に母親)の理解も得られなかったし、社交界にも馴染めなかった。ノーマンやその姉が現れるまで、絵を描いている時だけが自分を解放できる時だった。彼女にとっては文字通り、自分の絵が支えであり友人だったのだ。現に、湖水地方へ移住してから、ピーターたちは出てこなくなる。彼女は自分がいるべき場所を見つけ、もう孤独ではなくなったのだろう。