トニー・ガドリフ監督作品のヒロインは、総じて気が強く性格が悪いと思うのは私だけか。それが気に障ると同時に魅力的でもある。全然上品じゃないんだけどね(笑)。私は本来、感情のテンションが高い映画は苦手なはずなのだが、ガドリフ監督の作品は、女性も男性も喜怒哀楽が激しく、特に女性が情熱的であるにもかかわらず、何故か惹かれる。音楽がいい、というのも一因か。
 ふいに姿を消したロマのミュージシャンである恋人ミランを追い、トランシルヴァニアまでやってきたジンガリナ(アーシア・アルジェント)。お腹にはミランの子がいるのだ。しかしミランにはすげなくあしらわれ、ショックを受けたジンガリナは友人の言葉も聞かず飛び出した。フラフラの彼女を助けたのは、ロマ相手の商売もしているらしい旅の男・チャンガロ(ビロル・ユーネル<私、この人の顔がなんか好きなんです)だった。
 なし崩し的ロードムービーとでも言うべき、不思議な作品だった。チャンガロは元々旅する男だが、ジンガリナと行き会ってからは彼女に引っ張られるように移動し続ける。しかもジンガリナが結構性格悪い(笑)。「こいつよくわかんねーしめんどくせー」と思いつつ、その性格の悪さを許容してしまう男と彼をいつのまにか翻弄する女という組み合わせが愉快だった。
 私はロードムービーが好きなのだが、この映画も移動中の場面がなかなかいい。予告編でも使われていた、自転車で走るジンガリナの脇をチャンガロが笑いながら車で走るところ。このシーン、通りがかりの老人が車に同乗しているのだが、「ロマの女が自転車に乗っている所を初めて見た」と驚くところがおかしかった。ロマの女性は自転車乗らないの?そうそう、老人が良く出てくる作品だったが、皆とても味のある顔をしている。多分、プロの俳優ではなくて素人なんだと思うのだが、存在が濃い。ジンガリナのお産に駆けつけるおばあちゃん達とか、強烈です。ジンガリナが「魔女!」と怖がるだけのことはある。
 ジンガリナは最初、自分を棄てた男を諦められずに追って縋るようなキャラクターなのだが、教会でまじないを受け、ロマの女の恰好をしてから急に強くなる。監督の前作『愛より強い旅』でも、ヒロインが自分のルーツに立ち返ることで回復していく、というパターンだった。それはちょっと単純すぎるんじゃないかと思ったのだが、ガドリフ監督にとって自己のルーツを確認するというのは、それほどに重要なことなのだろう。また、本作の方がファンタジックな部分があり、服装によってキャラクターが変化していくというのもすんなり受け入れられたと思う。