藤原伊織著
 漢字2文字題名の連作は、一歩間違うとオヤジのドリーム小説(男の年齢は30ちょいだからオヤジというほどではないが)になりそうなものだが、そうはなっていないのは、本間のトラウマのためでも浅川のさっぱりとした気質と身長180cm.という体型のためでもなく、著者の文章独特の清潔感のせいだと思う。しかし小説としてはどうにも弱く、著者の気力・体力の衰えが垣間見られて辛い。中篇「オルゴール」も辛い話で、全体的に悲哀がにじむ。ところで著者の小説には絶対的な悪といった存在はあまり現れなかったように思うが、今回は(過去としてではあるが)それが出現しているのが興味深い。