くらもちふさこの同名マンガを、山下敦弘監督が映画化。生徒が6人しかいない山間の分校に、東京からイケメン転校生・広海(岡田将生)がやってきた。初めて同級生ができる中学3年のそよ(夏帆)は心浮き立つ。
 原作マンガは根強いファンも多く名作と名高いが、恥ずかしながら私、文庫1巻を買ったものの1冊読みきれませんでした・・・!何だか分からないけど何かに耐え切れなかった。そういうわけで原作未読のままです。でも映画なら、しかも山下監督なら面白いはず!と思ってかなり期待しつつ見に行ったのだが、やはり何かに耐えられなかった・・・。監督がヤケになったんじゃないかというくらいにキラキラ感に満ちていて、「『松ケ根乱射事件』が本性のくせにこいつ世の中謀りやがって・・・」と思うばかりで乗り切れなかった。同じようにキラキラ感とほんのりノスタルジーが搭載された『リンダリンダリンダ』は大絶賛できたのに。この違いは何なの。
 最大の違いは原作があるかないか(そして私がその原作を苦手だった)というところだけれど、それとはもうちょっと違う気がする。考えてみるに、ヒロイン(『リンダ~』ではヒロインたち)のタイプの違いというのが最大の要因ではないかと思う。本作のヒロインであるところの右田そよちゃんは、かわいい。そして良い子だ。年少の子の面倒をよく見て学校の生徒とは家族のようだし、自分の家族ともそれなりに仲良く(特に弟とのやりとりは微笑ましい)やっている。ただ、いい子なのだが気の遣い方が回りくどいというか、なんか面倒くさい子だなーと思う所が多々あって(東京土産選びとかお祭りでの失言による落ち込みとか)あまり好感をもてなかった。悪い子じゃないんだけど、むしろナイーブないい子なんだけど身近にいたら若干うっとおしいだろうなーと思う。それよりも、『リンダ~』の香椎由宇やペ・ドゥナのような少々乱暴で大雑把な子の方を面白いと思うし、好感が持てるのだ。これは相性の問題だろうから、逆に思う人も多々いるとは思うが。そよよりも、小学生の2人の女の子やそよの弟の方が、その年齢の子供っぽくてよかった。あと、広海に関しては、そのキャラクターに全然魅力を感じませんでした。よくいる中坊という程度で。
 加えて、本作はそよのモノローグにもあるように、「なくなるものと思うとまぶしく見えてくる」という側面を前面に出しすぎたんじゃないかと思った。過ぎつつある子供時代に対するノスタルジーが強くて、今ここに生きる少年少女という手ごたえに乏しい。美しくしすぎちゃったかしら。『リンダ~』では、こんな楽しげな学校生活自分にはなかったにも関わらず「そういえばこんな感じだった」と錯覚させられたが、本作にはそういう説得力みたいなものが薄かったと思う。
 また、山下監督の本領は同じ田舎を舞台としていても、限定されたコミュニティー内の面倒くささ・いやらしさを描く所にあると思うのだが、本作の田舎はただただ美しい。郵便局員のシゲちゃんの言動の不審さや、広海の母親とそよの父親に過去にひと悶着あったらしいという所に、本来の持ち味がチラ見えするくらいだ。田舎は田舎でも『松ケ根乱射事件』とは随分違う。
 監督は田舎・地方で育つ・暮らすことに対して何か思う所あるのか、微妙な田舎町を好んで舞台に選ぶ。もっとも、田舎町の窮屈さを描いてもそれを否定することはない。この映画も、そよの話であると同時に、広海が田舎で暮らす覚悟を決めるまでの話であるとも取れる。