フィリップ・K・ディック著、山形浩生訳
 出所不明の麻薬「物質D」が蔓延するアメリカ。覆面捜査官アークターはジャンキーのグループに潜入していたが、自身も麻薬に侵されていく。ディックはSFの人というイメージがあったが、本作はあまりSFぽくない。アークターは捜査官としての自分とジャンキーの自分という2つの現実を生きているが、だんだん2つが乖離し、自分がどっち側にいるのかわからなくなっていく。人間の精神が崩壊していく過程の描き方はドライで突き放しているが、痛々しい。全然救いのない話ではあるが、最後の数行には泣けてきた。作者あとがきがこれまた痛切。ちなみに昨年、本作を映画化したリチャード・リンクレイター監督の『スキャナー・ダークリー』(ロトスコープを使用したアニメーションということでも話題になった)が公開された。私は映画を見た時は原作未読だったのだが、今回読んでみて思った以上に原作に忠実に作られていたことに驚いた。よくやったなー。