父親が著名なピアニストで、自分もピアニストを目指している小学5年生の雨宮修平(神木隆之助)は、田舎の祖母の家に引っ越してきた。しかし転校早々ガキ大将に目を付けられて、肝試しに森の中にあるというピアノを弾いて来いと命令される。そんな修平に同級生の一ノ瀬海(上戸彩)は、森のピアノを弾きに行こうと声を掛けてきた。そのピアノは何故か海だけが弾きこなせるのだ。
 製作は、最近では『パプリカ』がヒットしたマッドハウス。監督はテレビシリーズ『花田少年史』が高く評価された小島真幸。それほど期待していなかった作品だったのだが、予想外に良かった。作画は地味ではあるが手堅いし、何と言っても演奏と音楽アドバイザーで参加しているウラディーミル・アシュケナージのピアノが素晴らしい。クライマックスで海の弾く、モーツァルトのピアノソナタ第8番イ短調はアシュケナージの演奏によるものだが、かっこいい!楽譜からは相当離れていると思うのだが、すごくファンタジックでいいです。キャラ立ってるなー。
 強く印象に残ったのが、海が音楽室で作曲家の肖像画を指差し、その作曲家の曲を音楽教師の阿宇野(宮迫博之)に演奏させるシーンだ。世界にはたくさんの音楽家がいて、たくさんの曲がある、どの曲にもそれを作曲した作曲家がいるということを、自己流の演奏しか知らなかった海が「知る」ことの喜びに満ちている。この映画はもちろん音楽映画ではあるのだが、知ること、学ぶことの面白さ(面白いと分かるまでが苦しいということも含め)はジャンルを超えたものだと思う。
 対して、修平にとってはピアノは苦行のようなもので楽しいものではなかった。修平サイドの物語は「努力型天才が天然型天才と交流することで忘れていた音楽の喜びを再び手にする」というのは一種王道のものではあるが、同時に、自分の才能の限界も思い知ることになる。これもまた王道ではある。しかし、その限界とどう折り合いを付けていくか、楽譜通りでパーフェクトな演奏ではなく、自分だけの演奏をどうやって手に入れていくのかという地点に至るのがいい(もっとも、この映画はその入り口のところだけを描いているのだが)。音楽は天才だけのものではない、天才でない人たちにもその人独自の音楽があるはずなのだ。そういう希望を残した爽やかな後味だった。
 もっと嫉妬等のドロドロした感情を強めて描かれてもおかしくはない物語だが、修平のキャラクターが素直であること、比較的理性的であることで、きれいにまとまったと思う。きれいすぎるという人もいるかもしれないが、半分ファンタジーのような物語なのでこれでいいのでは。
 ところで、かつて名ピアニストだったが事故により引退、現在はしがない音楽教師な阿宇野。一応シブい色男キャラのはずなのだが、声のキャスティングが宮迫@雨上がり決死隊なので驚いた。エンドロール見るまで気付かなかったよ!しかし気付いてしまったせいで、記憶の中の阿宇野が単なるセクハラオヤジに見えてきてしまってしょうがありません。どうしてくれる。あと、危惧していた上戸も案外上手かったです。キャラががっちり固まっている役だったのがよかったのか。そして上戸に「ちんこ」と連呼させた監督はつわものだと思った。