レイモンド・チャンドラー著、稲葉明雄訳
マーロウは出てこない中編「ネヴァダ・ガス」が特によかった。ギャンブラーである主人公デルーズの、穏やかだが一種冷淡で、事件のさ中にいるのだが常に傍観者のような姿勢が、彼の愛人との対比もあって妙にやるせない。ラストは昔のハリウッド映画のようでぐっときた。そして何と言っても面白かったのが、小説ではなく過去の推理小説や名探偵シリーズにケンカを売りまくっている随筆「簡単な殺人法」。ばっさばっさと切りまくる辛辣さが笑えるのだが、著者が目指していた小説の方向性がよくわかる。また、訳者後書き内に出てくる著者の手紙(ファンからのマーロウに関する質問に答えたもの)の文面もさらっとイヤミでおかしい。結構皮肉屋だったのね。ブランドやスタイルにこれみよがしにこだわるのは厭だったみたい。所で、作品内にしばしば“ホテル探偵”なる職業が出てくるのだが、ホテル付きの探偵というのは当時はポピュラーだったのか?それとも用心棒的なもの?