19世紀ロンドン。手品師のアンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)は共に修行に励む仲間だった。しかしアンジャーの妻で手品の助手をしているジュリアが、水中脱出手品に失敗、溺死する。ボーデンがロープをきつく結んだのが原因だと信じるアンジャーは、ボーデンを強く憎み、お互いに嫌がらせを繰り返すようになる。やがてアンジャーは演出の上手さでスターになる。一方ボーデンは画期的な「瞬間移動」を披露する。アンジャーはこれに激しく嫉妬するが。
 アンジャーとボーデンはライバルである所に加えて、アンジャーの奥さんが事故死したという事情もあって、仲は大変によろしくない。会えば火花が飛び散る険悪っぷりである。更にお互いの才能に対する嫉妬が話をややこしくしているのだ。お互いなんでそこまで、というくらいにやりあう。ガキの喧嘩みたいでおかしいのだが、お互いに結構な実害を被っているだけに笑えない。しかしもし、この2人のうちどちらかがこれほどまでに手品にのめり込んでいなかったら、事態はもっと簡単だったかもしれないし、アンジャーだって奥さんの事故を水に流す、とまではいかなくても延々とボーデンを憎むことはなかったかもしれない。2人が同じものに取り付かれ、同じくらい才能があったということによる悲劇と言えなくもない。
 2人が使った「プレステージ(偉業)」は、とっぴょうしもないので(原作はバカミスすれすれだもんなぁ・・・)拍子抜けする人もいるかもしれないが、男2人の確執ドラマとして面白かった。冒頭のシルクハットとラストにちらっとみえたある物が、ビジュアル面のインパクトとしても伏線としても効果的。影像面のトリックはもちろんだが、意外とシナリオ上のトリックもきちんと生きている。ボーデンの奥さんの言動の使い方も、なるほどと。トリッキーな映画『メメント』で一躍有名になったクリストファー・ノーラン監督が、同じく大変トリッキーなクリストファー・プリーストの小説『奇術師』を映画化しただけのことはある。あの長々としてややこしい小説をどうやって映画に、と思っていたが、これがなかなかよく出来ていた。原作の複雑な伏線をばっさりカットして、伏線もシンプルなもの(といっても一般的なエンターテイメント映画の中では複雑な方だと思う)のみ残してあった。このくらいすっきりしていると、カタルシスがあっていいなぁ。原作はあっちこっちこんぐらかっている上に、主人公2人がねちねち憎み合っているので大変疲れるのだ。
 ヒュー.ジャックマンもクリスチャン・ベールも熱演している。特にベールは中学生男子並の子供っぽい嫉妬や憎憎しい表情が似合う。いや似合っても嬉しくないだろうけど。あとヒロインのスカーレット・ヨハンソンは、ビッチ!な役が似合うなあ。