兄と2人暮らしの中学生・初子(東亜優)は、高校受験を控えた中学3年生。同級生の三島くんは、一緒の高校へ進学しようと勉強を教えてくれる。しかし初子にはお金がない。ラーメン屋のアルバイトもクビになり、兄(塩谷瞬)も勤務先の工場で乱暴をしてクビになってしまった。学費が払えず進学できないことを、初子は三島くんに告げられない。
 貧乏っぷりが身にしみてきて哀しくなっちゃったよ・・・。初子は電気代を払えず電気を止められるレベルに貧乏なのだが、「貧乏で高校に進学できない」というシチュエーションは、今の中学生にとってどのくらいリアルなんだろうとふと思った。卒業式間近、就職が決まった初子の前で、同級生たちは「最近家庭の都合で就職って多いんだってねー。でも働きながら資格取って正社員にとか、大検とか、色々あるんだってねー」という世間話をしている。しかしその話の内容は、初子の現実とは程遠く、カッときた初子は教室から飛び出してしまう。このシーンの同級生たちの「知ってるけど分かってない」感じが残酷だ。初子に好意を寄せている三島くんですら、この時の初子の心情には思い至らない。努力すればなんとかなる、とも言えるだろうが、経済力の差って、やっぱり決定的なんだよなとしんみりしてしまった。将来に対する自由度が全然違うもの。
 初子は母親が好きだった「赤毛のアン」を何度も読み返す。アンは大概な妄想娘さんだと思うが、初子もしばしば妄想する。この映画は大体、どこが現実でどこが妄想かきちんとわかるように演出されているが、基本的に初子の主観による光景なので、ひょっとするとここも初子の妄想なのでは?とも思う所も。初子は「赤毛のアン」が嫌いだと言う。皆がアンのことを好きになって幸せになるなんて出来すぎている、これは猩紅熱で死にそうな孤児・アンが見た夢なんじゃないかと言うのだ。そのセリフを踏まえると、特に三島くんとのやりとりは、「そうだったらいいのにな」という初子の現実逃避なんじゃ・・・と勘ぐりたくもなるのだ。
 しかし初子は徹頭徹尾無力ではあるが、逃げているわけでもないように思う。貧乏に対しても不幸に対してもじたばたしないだけなのだ。こういうタイプの方が、妄想を日々の糧にして案外しぶとく生き残りそうな気もする。担任教師に「誰かが助けてくれると思ってるでしょ」となじられるが、そうでもないのでは。将来とか幸運とかに対する期待度が極端に低そうだ。とは言っても、人生諦めた中学生というのは見ていてちょっと辛い。侘しい空気が漂いまくっている中で、初子と兄があやとりをする場面で少しだけ和んだ。