引越しの為、小学校卒業と同時に離れ離れになった遠野貴樹と篠原明里。中学生になった2人が再会しようとする『桜花抄』、高校生になった貴樹を、彼に片思いする女の子の視点で追う『コスモナウト』、大人になった彼らが登場する『秒速5センチメートル』の3編から成る連作アニメーション作品。自主制作アニメ『ほしのこえ』で一躍有名になった新海誠監督の新作。今回は個人製作ではないにしろ、ごく少人数の個人スタジオ的な体制の制作だったそうだ。
 新海誠といえば風景と細部のディティールの美しさである。町並み、電車、デスク周りの文具や本、そして逆光である。お前どんだけ逆光好きなんですか!というくらい全編逆光まみれである。まぶしいぜ。しかしそれ以外に何か記憶に残るものがない。美しい風景の映像にモノローグを載せただけで映画になるのかというと、ちょっと違うと思う。しかもモノローグがえらく恥ずかしい。おいおいどうしちゃったんだよ・・・と思わず白目をむきたくなりました。若人がちょっと上手いこと言ってやろうとしてスベっちゃったような恥ずかしさです。立派な大人になってから堂々とこれをやれるというのは、ある意味度胸があると思う。
 描かれる風景やマテリアルは緻密かつリアリティのある(風景はちょっと美しすぎるが)ものなのだが、キャラクターが口にする言葉に全くリアリティがないという、不思議なちぐはぐさがあった。これは監督の1作目からずっとそうなのだが、雰囲気先行で、設定のつじつまとかシナリオの出来不出来とかはあまり考慮されていないように思う。ともかく、何を思ってこれを作っちゃったのかよくわからない作品だった。
 さらに、アニメーションのキャラクターを動かすことにはあまり興味がないのではという印象を受けた。キャラクターの演技が正直下手なのはともかく、プロポーションがコロコロ変わるの(デフォルメとかではなく、単にデッサンが狂っているものと思われる)は問題では。キャラクターのデザインも、よく言えば癖がない、悪く言えば個性がない。風景やディティールを描くのが本当に好きなんだなーというのはよくわかるが、映画としては少々厳しい。これで「映画ですよ」と言ったら真っ当に映画監督や脚本家を目指している人が怒りそうだなぁ(苦笑)。映画というよりはPVのような趣が。