落ち目のミュージシャン・リーがドラッグの過剰摂取で死亡し、妻のエミリー(マギー・チャン)は麻薬所持で逮捕された。半年服役した後、親戚の中華料理店で働いていたエミリーだが、店員とはそりが合わずに辞めてしまう。リーの両親に預けた一人息子のジェイに会うため、なんとか仕事と住みかを手に入れようと、エミリーはリーと出会う前に暮らしていたパリへ引っ越す。
オリヴィエ・アサイヤス監督作品。日本での新作公開が相次いで何よりだ。主演のマギー・チャンは、本作でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞している。確かに熱演だし、マギー・チャンがこういう役柄を演じるのかという意外性もあった。また、リーの父親役のニック・ノルティが、安定感抜群。ベアトリス・ダルをはじめ、脇役の女性たちが皆かっこいい(決して「出来た人」を演じているわけではないのだが)のもよかった。
マギー・チャンは熱演しているが、この役をどう演じるのか、かなり悩んだらしい。それも無理はない、というのは、エミリーという人物は決して共感を呼んだり励ましたくなるような、いわゆる好感を持てるキャラクターというわけではないからだ。薬物依存症であり、多分に甘えたところがあって地道な努力は苦手そうだ。義父母に預けた息子にも長らく会いに行っておらず、子供には「ママは僕を好きじゃないし僕もママを嫌い」と言われてしまう。息子との再会も、決して感動的なものではない。息子はしぶしぶといった感じだし、彼女もぎこちない。しかしそんな人間だからこそ、(いやなところではあるが)近しく感じることもある。
「人は変われる」ということが描かれている作品だが、同時に、人の芯にある部分は変わらないんじゃないか、ということも提示しているように思った。「変われる部分」と「変われない部分」とのせめぎあいがストーリー、というよりも主人公であるエミリーの中心にある。映画のラストの落とし方が、それを象徴している。このラストに納得いかないという人もいそうだし、ハッピーエンドとも言いがたいが、これはこれで一つの希望ではある。彼女は模範的な妻・母親にはなれないかもしれないが、少なくとも自分の人生を立て直すことはできるかもしれない。
アサイヤスが、前作『夏時間の庭』や本作のような、大人の人間ドラマを撮るということが意外でもある。貫禄すらあるんじゃないかこれ・・・。『夏時間~』に引き続き、人間の不完全さ、多面性を描くことに焦点が当てられていたように思う。人間はきれいごとではない、しかし美しい瞬間がある、という視線に好感を持った。撮影と編集はタイトで素晴らしい。湾岸の工場地帯を対岸から見た景色など、特に夜景の撮影が美しかった。省略の仕方の思い切りがよく、前作より無駄はなくなっていると思う。
オリヴィエ・アサイヤス監督作品。日本での新作公開が相次いで何よりだ。主演のマギー・チャンは、本作でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞している。確かに熱演だし、マギー・チャンがこういう役柄を演じるのかという意外性もあった。また、リーの父親役のニック・ノルティが、安定感抜群。ベアトリス・ダルをはじめ、脇役の女性たちが皆かっこいい(決して「出来た人」を演じているわけではないのだが)のもよかった。
マギー・チャンは熱演しているが、この役をどう演じるのか、かなり悩んだらしい。それも無理はない、というのは、エミリーという人物は決して共感を呼んだり励ましたくなるような、いわゆる好感を持てるキャラクターというわけではないからだ。薬物依存症であり、多分に甘えたところがあって地道な努力は苦手そうだ。義父母に預けた息子にも長らく会いに行っておらず、子供には「ママは僕を好きじゃないし僕もママを嫌い」と言われてしまう。息子との再会も、決して感動的なものではない。息子はしぶしぶといった感じだし、彼女もぎこちない。しかしそんな人間だからこそ、(いやなところではあるが)近しく感じることもある。
「人は変われる」ということが描かれている作品だが、同時に、人の芯にある部分は変わらないんじゃないか、ということも提示しているように思った。「変われる部分」と「変われない部分」とのせめぎあいがストーリー、というよりも主人公であるエミリーの中心にある。映画のラストの落とし方が、それを象徴している。このラストに納得いかないという人もいそうだし、ハッピーエンドとも言いがたいが、これはこれで一つの希望ではある。彼女は模範的な妻・母親にはなれないかもしれないが、少なくとも自分の人生を立て直すことはできるかもしれない。
アサイヤスが、前作『夏時間の庭』や本作のような、大人の人間ドラマを撮るということが意外でもある。貫禄すらあるんじゃないかこれ・・・。『夏時間~』に引き続き、人間の不完全さ、多面性を描くことに焦点が当てられていたように思う。人間はきれいごとではない、しかし美しい瞬間がある、という視線に好感を持った。撮影と編集はタイトで素晴らしい。湾岸の工場地帯を対岸から見た景色など、特に夜景の撮影が美しかった。省略の仕方の思い切りがよく、前作より無駄はなくなっていると思う。