3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『赤い衝動』

サンドラ・ブラウン著、林啓江訳
 25年前に起きたビル爆破事件。惨状の中救出に奔走し一躍英雄となったものの、3年前に隠遁生活に入っていた“少佐”への取材に成功したTV局リポーターのケーラ。インタビューは評判になったものの、お礼をしに訪問した少佐の自宅で何者かに襲われる。何とか脱出したものの、少佐は重傷で意識不明。少佐の息子ジョンはケーラを拉致するようにして保護する。ケーラにもジョンにも、狙われかねないある事情があった。
 本作、いわゆるロマンティック・サスペンスなのだが「スーパーチャージド・セクシャル・サスペンス」と銘打った出版社側のやってやるぜ感がすごい。ただ本作、どちらかというとサスペンス部分の方がスピーディーでどんどん転がしていく展開なので、ロマンスが取って付けたように感じられた。いちゃついている暇があったら早く真相を究明してよ!という気分になってしまう。私がケーラにもジョンにも全く魅力を感じなかったのもロマンスを楽しめなかった一因だろう。特にジョンのかっとしやすさや独りよがりな行動(多少強引なのがステキという向きもあろうが)にはイライラしっぱなし。彼のある人物に対する接し方は、長年この調子だったんじゃ大分相手は殺意が溜まっているだろうなというものなのだが、本人全く自覚がなさそう・・・。
 ロマンス部分よりもむしろジョンと父親とのわだかまりやすれ違いに、人間ドラマとしての読み所がある。こういう拗れ方をしている父息子っているよなぁと思わせるものなのだ。愛はあるのだが、お互いにその発揮の仕方がミスマッチでしんどそう。

赤い衝動 (集英社文庫)
サンドラ・ブラウン
集英社
2018-12-18


さまよう記憶 (集英社文庫)
サンドラ ブラウン
集英社
2015-12-17


『シークレット・ヴォイス』

 国民的歌手のリラ・カッセン(ナイワ・ニムリ)が姿を消して10年。彼女の復帰コンサートが発表された。しかしリラは突然倒れ記憶喪失に陥り、歌い方、踊り方まで忘れてしまう。リラのマネージャー・ブランカは、リラの歌を彼女そっくりに歌いこなすカラオケ・バーの店員ヴィオレタ(エバ・リョラッチ)を探し出し、彼女のリラのコーチを依頼する。リラの大ファンであるヴィオレタは突然の出来事に戸惑う。監督はカルロス・ベルムト。
 ヴィオレタは無職の娘を抱えるシングルマザーで、苦労が絶えない。彼女にとって、リラの歌は人生の支えであり、見返りのない愛の対象だ。リラに助けを求められたヴィオレタは、彼女の苦境を支えようとする。ヴィオレタのリラの歌の他に自分には何もないといった風な面持ちが、どこか痛々しかった。実際のところ彼女には娘という家族がいるわけだが、娘との距離は微妙で、関係はぴりついたものだ。前半の娘とのやりとりからは、彼女は娘に対して毅然と振舞おうとするが、最終的に娘の無理難題に屈してしまう。2人の間には愛はあるが、母の愛は娘に不信感を持たせ、娘の愛は母を試し続けるという形でしか表出されない。
 リラとヴィオレタとの関係が物語の軸になるかのように見えるが、実はヴィオレタと娘との関係の方が重要だと思う。一方が愛ゆえにもう一方を消耗し続けているように見える。そして、リラ自身もある人物と似たような関係にあったことが分かってくる。リラとヴィオレタは愛に負け、それが家族との関係をよりねじれたものにしてしまったのだ。もっと早い段階ではねつけていれば、あるいは悲劇は回避できたかもと思わざるを得ない。

マジカル・ガール [Blu-ray]
ホセ・サクリスタン
バップ
2016-10-05


アナとオットー [DVD]
ナイワ・ニムリ
IVC,Ltd.(VC)(D)
2014-05-23


『迫りくる嵐』

 1997年、中国の小さな町で、若い女性の連続殺人事件が起きた。古い国営製鋼所で保安部の警備員をしているユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン)は、探偵気分で警察の捜査に首を突っ込む。自ら犯人を捕まえようと奔走するユィは、段々事件にのめりこみ、ある行動を起こす。監督・脚本はドン・ユエ。
 ユィはどこにでもいるような、ごく普通の人だ。「名探偵」と呼ばれてその気になってしまうのは、どこにでもいる人ではなく、特別な何者かになりたいからだろう。この「何者かになりたい」という欲望は何なんだろうなと、しばしば思う。「何者か」という認識自体が状況に左右されるもので曖昧なのだ。周囲から評価されたいということなのか、自分のオンリーワン度合いを確認したいということなのか。グオウェイにとっては、世間から評価されたい、社会から軽く扱われたくないということなのかなと思った。グオウェイの恋人は彼のことを大切に思っているし、弟分も彼を慕っている。しかしそれはプライベートな世界での話で、彼にとっては不十分なのだろう。だからこそ、恋人は彼の行動に深く傷つき取り返しのつかないことになっていく。彼にとって生涯の思い出となっているのは、工場で表彰された記憶の方なのだ。
 この「何者か」になりたいという欲望が、グオウェイを犯人探しに駆り立てるのだが、駆り立てられるあまり、徐々に真相を追求するのではなく、自分が見たいものを見る、読み取りたい物語を勝手に読み取るようになっていく。彼が果たして本当に真相に近づいているのか、はたまた彼の中にだけある物語を繰り出しているのか、段々わからなくなっていくのだ。グオウェイの主観が入ることによる足元の不確かさをもっと味わいたかった気もする。個人的な趣味ではあるが、グオウェイの狂気が世界を飲み込むさまが見て見たくなるのだ。とは言え、そこまで「あちら側」に接近することが出来ないからこそ、彼は普通の人であり「何者か」にはなれないということなんだろうけど。
 中国が経済発展に向けて大きく動く最中の時代を舞台にしており、グオウェイの勤め先である国営工場のような文化は、時代に取り残されていく。そこで働いていた人たち、その周囲に暮らす人たちも同様だ。自身が時代に取り残されていく中で、グオウェイにとっての拠り所が殺人事件捜査であり、それにのめり込むことで「迫りくる嵐」から目を背けようとするかのようだ。最後までどこにも行けない彼の姿が痛切。

薄氷の殺人 [Blu-ray]
リャオ・ファン
ポニーキャニオン
2015-05-20


鉄西区 [DVD]
紀伊國屋書店
2013-05-25


『ワニの町へ来たスパイ』

ジャナ・デリオン著、島村浩子訳
 凄腕CIA工作員の「わたし」、フォーチュンは潜入任務で騒動を起こし、敵対組織に狙われる羽目に。上司に一時潜伏を命じられた先はルイジアナの田舎町シンフル。「この町に住んでおり既に亡くなっている女性の姪で、元ミスコン女王、今は司書として働き趣味は編み物」という設定で暮らせというのだ。自分とは正反対の女性に成りすまし静かに暮らすはずだったが、家の裏の川で人骨を発見してしまう。保安官助手に目を付けられつつも、地元を仕切る老婦人たちに無理矢理協力させられ、人骨事件の真相を探ることになってしまう。
 「我が人生最悪の時」とでも言いたくなるフォーチュンの巻き込まれ体質には同情するが笑ってしまう。冷静・冷徹なスパイのはずなのに老夫人たちの説得に乗ってしまう脇の甘さや、無駄に軋轢を起こしそうな向こうっ気の強さを持ったフォーチュンのキャラクターが楽しいし、老婦人たちのボケとツッコミのような息の合ったやりとりと大活躍も楽しい。女性たちが皆生き生きとしており、女性の連帯がキーになった話でもある。フォーチュンが赤の他人である「叔母」に段々シンパシーを感じていく過程も(笑っちゃうんだけど)いい。一応イケメン枠として保安官助手がいるが、正直いらない気がしてきた。

ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン
東京創元社
2017-12-11




ミスコン女王が殺された (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン
東京創元社
2018-09-20


『顔のない男 刑事ファビアン・リスク』

ステファン・アーンヘム著、堤朝子訳
 刑事ファビアン・リスクは関係がぎこちなくなっていた妻と2人の子供と再出発するため、故郷の街の警察に移動し、家族と共に引っ越してきた。しかし両手を切断された男の死体が街の学校で発見される。死体の傍らには30年近く前のクラス写真が残されており、続いて写真に乗っていた同級生が殺される。彼らはリスクの同級生だった。休暇中にも関わらず捜査にのめり込んでいくリスク。そして容疑者は当時ひどいいじめを受けていた人物に絞り込まれる。
 著者はヘニング・マンケル原作の刑事ドラマ“ヴァランダー”シリーズの脚本家だったそうで、確かに文章は映像的、構成も次章への引きが強い連続テレビドラマっぽさがある。読者の興味をそらさない派手な演出の事件の連続なのだが、ちょっとやりすぎ感があった。映像で見ると飽きずに面白いんだろうけど、文章で読むと逆に単調に思えるというところに、自分の鑑賞者としての体感の差異が感じられた。
 リスクは刑事としては有能なのだが、報・連・相!と新入社員向けの説教をしたくなるような展開が多々あり、これは上司は大変だろうな(実際、地元警察の上司は彼を庇うのに苦慮している)と同情してしまった。また、リスクは家族との関係を立て直そうと心機一転したのだが、夫として、父親としての責任が正直気が重い、何となく避けたがっているという描写が随所にみられる。彼が事件にのめり込むのは、捜査を言い訳にして家族と距離を置けるからでもあるだろう。そのちょっとした姑息さ、嫌なことは後回しにしていまう部分の造形が上手い。
 なお本作、音楽の趣味が自分と結構合って楽しかった。リスクがボン・イヴェールは最初気に入らなかったけど次に聴いたとき時にはすごくいいと思ったとか、その次に聞くアルバムがケイト・ブッシュのものだとか、わかるわー!と。

刑事ファビアン・リスク 顔のない男 (ハーパーBOOKS)
ステファン アーンヘム
ハーパーコリンズジャパン
2016-10-25


刑事ファビアン・リスク 零下18度の棺 (ハーパーBOOKS)
ステファン アーンヘム
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-11-16


『贖い主 顔なき暗殺者(上、下)』

ジョー・ネスボ著、戸田裕之訳
 クリスマスシーズンのオスロの街頭で射殺事件が起きた。衆人環視の環境なのに、目撃者は現れず手掛かりは乏しいままだった。捜査にあたったオスロ警察警部のハリーは、手掛かりを求め奔走する。プロの殺し屋による犯行ではないかと捜査を続けるが。
 警察側と殺人者側、そしてある形で事件に関わった人たちと、複数の側面から描かれる。『悪魔の星』でガタガタになったハリーの心身は大分持ち直しているようで、もう少しとっちらかっていない(笑)行動なのでほっとした。無軌道すぎた前作と比べると捜査の手順も順当。やはり逸脱していってしまうのは彼の特性だから仕方ないのか。とはいえ、アルコールの誘惑はなかなか断ち切れないようだが・・・。どんどん盛っていくタイプのサスペンスなのでちょっと食傷気味になる。あるトリックは本格ミステリとしては禁じ手だし(本作の場合は構わないと思う)真犯人の行動もそこまでやる必要ある?というもの。とはいえ、ハリーのメンタルが多少安定し、彼独自の倫理観、筋の通し方がわかりやすく見られる。同僚たちの成長や変化も頼もしい。信頼していた上司が去り、新しい上司とはいまいちそりが合わないのだが、意外と上司としては悪くないのでは・・・。この上司、やたらと第二次大戦時の日本軍の方針を引き合いに出すので、日本軍の顛末わかってやってるのかなーと疑問だったがちゃんとオチがつく(笑)。
 なお救世軍が登場するのだが、ノルウェーの救世軍って本当に「軍」で役職も将軍とかなのね・・・日本の救世軍とは大分雰囲気が違う。

贖い主 上 顔なき暗殺者 (集英社文庫)
ジョー ネスボ
集英社
2018-01-19





『22年目の記憶』

 1972年、南北共同声明が発表された。韓国は南北首脳会議に備え、北朝鮮の最高指導者・金日成の代役オーディションを密かに行う。オーディションに合格したのは、売れない役者ソングン(ソル・ギョング)だった。金日成という役になりきる為の厳しい訓練に耐えるソングンだが、彼の出番は結局なかった。そして22年後、心を病み自分を金日成だと信じ込むソングンは、父である彼に人生を狂わされた息子テシク(パク・ヘイル)と同居することになる。借金まみれのテシクは、実家の土地を売る為に実印を探していたのだ。監督はイ・ヘジュン。
 予告編だと父息子の感動ストーリーっぽいが、それはあくまで本作の一部だ(ということは、全貌を見せずにキャッチーな部分を抽出した良くできた予告編なんだと思う)。リハーサルを行う構想は実際にあったそうだが、金日成の代役を作るという荒唐無稽な設定のコメディである一方、ソングンが受けるオーディションや訓練は、不条理ホラーのように見えてきてかなり怖い。着地点がどこなのかがわからないのだ。そしてソングンの演技への執着、彼に取りついて離れない金日成という「役」の不気味さがじわじわくる。ソングンに演技を教える教授は、役者は役を飲み込み、その上で吐き出さないとならないと言う。演技には魔力があるのだろう。ソングンは演技の魔に取りつかれて冒頭で失敗し、その失敗を引きずるが故に更に演技の魔に取りつかれた人生を送る羽目になってしまう。テシクが、父が正気に戻る時間が増えると逆に不安になるというのがうすら寒さを感じさせた。正気でない状態が普通ってことだから。
 本作、笑いや涙があってもどうにも不気味だった。ソングンとテシクが辿る珍妙な人生の裏には、人1人の人生を道具扱いにする国家という存在がある。金日成の代役を立ててリハーサルをするという計画自体、冷静に考えるとそれ何か意味あるの?という気がするのだが、そういうことを平気で出来る存在だと言うことが、不気味かつ不穏なのだ。


『シシリアン・ゴースト・ストーリー』

 1993年、シシリアの小さな村で、13歳の少年ジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)が失踪した。彼に思いを寄せていた同級生のルナ(ユリア・イェドリコヴスカ)は、ジュゼッペの行方を知ろうとあちこち訪ねまわるが、大人たちは一様に口をつぐみ、真相は伏せられたままだ。監督・脚本はファビオ・グラッサドニア&アントニア・ピアッツァ。
 実際にあった誘拐事件が元になっており、映画を見ている側にはジュゼッペの父親が何者なのか、ジュゼッペを待ち受ける運命がどのようなものなのか、おおよそわかってしまう。ことは既に起こってしまい、不可避なのだ。その不可避さに、ルナは一人で挑む。彼女のジュゼッペへの想いは強く深い。彼女の中ではジュゼッペが死ぬ世界は否定され、彼が生きる世界が構築されている。そのファンタジーは彼女を突き動かし、彼女の外側、周囲にもあふれ出てこようとする。両親や友人の言葉は彼女を思っての現実的なものなのだが、ルナにとっては自分の邪魔をする分からず屋たちということになるのだ。ルナの一途さ、頑固さにインパクトがある。演じるウェドリコヴスカの意思の強そうな表情が素晴らしい。彼女が主演でなければ、もっと弱弱しい作品になったのではないかと思う。
 ルナのファンタジーはジュゼッペと彼女自身を救う為のものだが、同時に、彼女の肉体を生と死のぎりぎりの境界にまで連れて行ってしまう。ファンタジーは身を守るものになるが、強すぎるファンタジーは「あちら側」、死へと当事者を連れて行ってしまうという部分は、ギレルモ・デル・トロ監督作品を思わせる。もちろんファンタジーのセオリーなわけだが。「こちら側」と「あちら側」への移動は水によって表現されている。異界への入り口として揺らぎのイメージがぴったりだなと思っていたのだが、ことの顛末まで見るともっとえぐい、救いようのない理由だったのかとわかって愕然とした。この救いのなさに対してせめて何かしらの救いを、という祈りが込められた作品でもあると思う。「こちら側」に戻ってきたルナがジュゼッペを忘れるのではなく、今も彼と共にある、そして2人は自由であると示唆されるラストが美しく切ない。
 ルナの両親の描写が面白い。特に母親の超然とした雰囲気は時に不穏でもある。理性的で現実的であり、ジュゼッペに夢中なルナに対して批判的だ。父親はいかにも田舎の(ちょっとモテそうな)中年男という感じなので、なぜこの2人が結婚したのか不思議なのだが、母親の言葉の端々から、結婚を悔いておりルナには同じ道を辿らせたくないという思いが見え隠れする。それはルナには通じていないんだろうけど。父親とのピクニックの際、2人して母親の手作り弁当を捨ててしまうのがおかしかった。そんなに不味いのか、たまにはジャンクフードを食べたいのか。

ゲティ家の身代金 [Blu-ray]
ミシェル・ウィリアムズ
KADOKAWA / 角川書店
2018-09-28


パンズ・ラビリンス [Blu-ray]
イバナ・バケロ
アミューズソフトエンタテインメント
2013-05-22


『シュガー・ラッシュ:オンライン』

 アーケードゲーム「シュガー・ラッシュ」のキャラクターで天才ドライバーのヴァネロペと、親友の心優しい悪役キャラ・ラルフ。ある日、シュガー・ラッシュが故障し、廃棄処分の危機に陥る。ヴァネロペとラルフはシュガー・ラッシュを救おうと、ゲームセンターを飛び出しインターネットの世界へ。ネットオークションでシュガー・ラッシュの部品を手に入れようとするが。監督はリッチ・ムーア&フィル・ジョンストン。
 1作目はゲーム世界の「楽屋ネタ」的構造にいまいち乗れなかったのだが、本作はあまりゲーム要素がないからか面白かった。と言っても、インターネット世界の構造をビジュアルで見せる場合ってこれでいいのか?とか、ゲームやアニメのキャラクターを「キャスト」として見るのって、それこそ公式が二次創作しているみたいでちょっとなぁという気持ちはぬぐえないのだが。
 ディズニー作品にしてはかなり苦い味わい。特に中年にはしみる話ではないかなと思う。ラルフはアーケードゲームの世界に満足しており、このまま変わらないことが幸せだと考えている。しかしヴァネロペにとってアーケードゲームの世界はもう退屈で自分が成長していく余地もない。彼女が自分がいたい場所だと思えるのはインターネットの世界だ。たとえ親友同士でもやりたいことは違う、違う人生を選ぶことになるかもしれないという親友同士の物語として描かれているのだが、ラルフのルックスが中年男性なので、時代に取り残され若者に粘着しているように見えてしまう。ひいては少女に粘着するおじさんのキモさが浮き彫りになってしまっている向きがある。多分そこは製作側の本意ではないと思うんだけど・・・(アメリカ映画としてはおじさんが少女に粘着するのはそもそも論外なので、映画の描写としてわざわざ出さないだろうと思う)。
 悪役としてのアイデンティティをラルフは前作で更新したわけだが、本作で彼のアイデンティティは「ヴァネロペの親友」として固まってしまっており、ヴァネロペに依存している。ラルフはラルフ、ヴァネロペはヴァネロペでそれぞれ自立した別の存在だという意識が希薄になってしまっているのだ。他人を自分の在り方の拠り所にするのはかなり危ういことだが、ラルフも案の定、踏み越えてはいけないラインを越えてしまう。親友を尊重するというのはどういうことか、自分の生き方は自分で保たなくてはならないのだと気づくラルフは、納得はしてもちょっと寂しそう。こういう余韻のディズニーアニメって珍しいのでは。
 ディズニー世界へのメタ視線で作られた作品で、それこそ「プリンセス控室」みたいなものも出てくる。従来のディズニープリンセスへの「こうであれ」設定はプリンセス当人にとってどうなのよ、的な自己批判的メタ視線も。ヴァネロペはプリンセスであってプリンセスでない(全く王子様もパートナーも家族も必要としていないと本作でより明らかになる)、結構例外的なキャラクターだと浮き彫りになる。

シュガー・ラッシュ DVD+ブルーレイセット [Blu-ray]
ディズニー
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2013-07-17






魔法にかけられて [Blu-ray]
エイミー・アダムス
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2010-10-20

『アイ・フィール・プリティ!』

 ぽっちゃり体型に劣等感があり、自分に自信が持てないレネー(エイミー・シューマー)は、有名化粧品会社に勤めているものの希望のポストに応募を出せずにいた。ある日ジムでトレーニング中にマシンから落ちて気を失ってしまう。目覚めた時に鏡に映っていたのは絶世の美女になった自分だった。監督はマーク・シルヴァースタイン&アビー・コーン。
 レネーは「美女」に変身したと思いこむわけだが、彼女が見ている自分の姿は一度も出てこないと言う所が、あくまでレネーの主観の問題なんですよと主張している。ルックスに自信を持ったことで堂々と振る舞うレネーの姿は爽快なのだが、これは彼女の中のルッキズムが非常に根強い、美人でゴージャスであれば諸々の問題が解決する、得をすると思いこんでいるということでもあるから、見ているうちにちょっと辛くなってきた。レネーの中の「美人」像が大分古く、なまじ「美人」の自意識を得たことで、その古さや鼻持ちならなさが増徴してしまうのだ。ここを笑いに落として皮肉るなりなんなりしてくれればよかったのだが、あんまり言及しないので気になった。レネーは、男性はセクシー美女を見たらナンパするし、性的なちょっかいをかけられれば悪い気はしないだろうと思いこんでいる。実際は人それぞれのはず。男性は皆セクシーな女性が好きでセックスの話をしたいだろう、下ネタで盛り上がれる美女こそいい女だという思いこみは多分に迷惑だし、そこに巻き込まれる女友達のこともバカにしている。そうでない話をしたい男女ももちろん(相当数)いるわけだから。
 「美人」として奔放に振る舞うことでボーイフレンドもできるが、彼が「美人」版レネーに惹かれたのは彼女のルックスによるものではなく、気後れせずに自分が楽しみたいことを楽しむ彼女の振る舞いによるものだ。「美人」になったレネーはそこを見落としてしまう。バーの美人コンテストでのレネーが爽快なのは、彼女が自分がやりたいようにやっていてとても楽しそうに見える、そのことで周囲が盛り上がるからで、必ずしも彼女が美女だからではないのだ。クライマックスのスピーチは取ってつけたようでしらける。彼女が発言している場にいる人たちは美男美女のセレブばっかりで、なぜセカンドラインのお披露目にこの人たちを呼んだのか謎だし、彼女の声は届くべきところに届いていないのでは?と気になってしまう。そもそも社内にスタイル抜群の美女しかいないんだから、変えるべきなのはレネー個人の意識よりも先に社風なんでは・・・。
 どちらかというと、レネーよりも彼女の上司のエイブリー(ミシェル・ウィリアムズ)や、ジムで知りあう女性のように、ルックスも背景も申し分ないように見えるのに自己肯定感の低い人の方が問題解決が深刻なんじゃないかなという気がした。特にエイブリーがなんだか気の毒でしょうがなかった。彼女は「バカっぽい」声にコンプレックスがある(高目の可愛らしい声はアメリカではバカっぽくて評価されないそうだ。日本の女性アニメキャラ全滅だな・・・)。会議でも部下たちが創業者である祖母の顔色ばかり気にするし、なんとなく下に見られている感じ。彼女が「私は私」と思えたとしても、周囲がそう見なさそう。

そんな彼なら捨てちゃえば? [Blu-ray]
ベン・アフレック
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-07-14





ハッピー・ゴー・ラッキー [DVD]
サリー・ホーキンス
アメイジングD.C.
2012-03-02

『悪魔の星(上、下)』

ジョー・ネスボ著、戸田裕之訳
同僚刑事が殺された事件を3年間追い続けていたが、手がかりは途絶え捜査に行き詰まり、酒におぼれ免職を命じられたハリー。そんな折、オスロで猟奇的な殺人事件が起きる。しかも連続殺人の恐れが出てきた。ハリーも捜査に加わり奔走するが。
とにかくハリーが一貫して具合悪そうなので、事件云々よりもアルコール依存症と不眠が心配になってしまう。ハリーは刑事としてどころか、普通の社会人としての体をなさなくなっていくのだ。近くによると凄まじい臭いがしそうなんだもんな・・・。刑事としては有能で、ある真実にもたどり着くものの、それは彼を幸せにしないし魂を救いもしない。色々片をつけていくものの、むしろこの先ハリーは地獄を歩み続けることになるのではという予感しかしない。連続殺人の陰惨さ、犯人野猟奇性は、ハリー個人の地獄と比べるとギミックのようなもので軽く感じられてしまうのだ。事件が解決しても全く安心感も爽快感もない。ハリー本人の状態が危機をひきつけているように見える。

悪魔の星 上 (集英社文庫)
ジョー ネスボ
集英社
2017-02-17





悪魔の星 下 (集英社文庫)
ジョー ネスボ
集英社
2017-02-17

『サイレント(上、下)』

カリン・スローター著、田辺千幸訳
 田舎の大学町の湖で、若い女性の死体が発見された。ナイフで刑事を刺して逃げた若者が逮捕され、犯行を自供したものの、拘留中に両手首を刺して自殺。壁には無実を訴えるメッセージが残されていた。地元警察の不手際により招集されたジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレントは、若者の自供に疑問を持ち、対処した警官たちは嘘をついているのではと疑い始める。
ウィル・トレントシリーズとしては『ハンティング』から続く作品なので、ウィルと医師サラ・リントンとの関係はまだ何とも言えない段階のもの。この後の作品を読んでいる読者からすると、ここからよくステップアップしたなというぎこちなさを感じる。本作の舞台はサラの実家がある町で、彼女の亡き夫ジェフリーの死を引き起こした(とサラが考えている)警官レナ・アダムズが今でも勤務している。サラは概ね冷静で有能なのだが、ジェフリーの思い出、そしてレナが絡むと途端に感情的になり取り乱す。彼女の傷の深さがわかるが、この先も読んでいるものからすると、そろそろこのネタ切り上げませんかという気も・・・。このシリーズ、基本的にネタの引っ張りがくどいな・・・。
シリーズの他作品に比べると、事件の真相はかなりすっきりしない。残虐度は比較的低いのだが、人間が保身のためにやってしまうこと、それがどんどん事態をこじられせていく様のスケールのしょぼさが逆にしんどい。

サイレント 上 (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-06-17






サイレント 下 (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-06-17

 
 

『奥のほそ道』

リチャード・フラナガン著、渡辺佐智江訳
 太平洋戦争中の1943年、日本軍はビルマ戦線への物資輸送の為、タイ側のノンブラドッグとビルマ側のタンビュザヤまで、415キロの鉄道線路を建設していた。労働力として駆り出されていたのは連合国軍捕虜とアジア各国から徴用された労務者たち。捕虜の待遇は劣悪で死者が続出し、「死の鉄路」と呼ばれるほどだった。」オーストラリア陣捕虜で軍医のドリゴ・エヴァンズは地獄のような環境を生き延びようとするが、1通の手紙が彼の希望を砕く。
 捕虜としてなすすべもない日々、人妻であるエイミーとの激しい恋、そして戦争を生き延びたその後と、ドリゴの人生がランダムに語られていく。エイミーと過ごした日々はごくわずかなのだが、焼きつきそうに強烈に輝いている。全く助かりそうな目が見えない、どん詰まりなビルマの状況とあまりにも対照的で、双方の印象をより強めていく。エミリーとのロマンスも、捕虜としての悲惨な経験も、ドリゴにとってはそれを知らなかった頃には戻れない、深い楔を打つような体験だった。全く別種の体験ではあるのだが、どちらの体験も彼の上を過ぎ去らない、出来事としては終わってもじわじわとむしばんでいく。晩年の彼の姿からは、何が残って何が失われたのか見えてしまうところが何だか痛ましいのだ。全てがこぼれおちていくようなこころもとなさ、はかなさが増していくあたりは、芭蕉の句と呼応しているようにも思う。
 捕虜の境遇の劣悪さの描写がなまなましく、体の壊疽した部分を切断し続けざるを得ない所とか、特に肛門が飛び出ている(尻の肉が削げ落ち切ってしまっているということだろう)ところとか、かなりきつい。また、日本軍人たちの描写は戦犯を免れた人たちの典型とでもいうもの。戦犯になるのを恐れながら、経年するうちに当時の記憶を徐々に繭でくるんでごまかしていく、ごまかしたものが自分にとっての真実となってくナカムラや、自身の行いに全く疑いを持たないその部下。また在日朝鮮人として上官の指示に従い戦犯として処刑されるチェ・サンミンら。責任の度合いの大きい者たちは最終的に責任を問われず、処罰しやすい所から処罰されていくという本末転倒が、歴史として既に知っていることではあるが苦々しい。

『2018年ベスト映画』

事実を元にした、実際にあった事件を背景にしたフィクション映画が妙に多い年だった気がする。今年も良く見ました。

1人で戦いに赴くビリー・ジーンの姿、そして試合後の姿が目に焼き付く。彼女の闘いは今に繋がっているのだ。また、ビリー・ジーンとマリリンがドライブしているシーンでの恋愛の高揚感が素晴らしかった。

「報道の自由を守る方法は一つ、報道し続けることだ」という言葉が刺さる。正に今年見るべき映画。スピルバーグ監督による王道の「面白娯楽映画」でもある。

トーニャと彼女を巡る人々の話は「藪の中」だが彼女の語りに引き込まれた。編集が見事。フィギュアスケートという競技のいびつさを垣間見た感もある。

とっちらかっている、というか登場人物の向かう方向が各々バラバラなのにまとまりがよい脚本の力。人間のいびつさと一様でなさが強烈だった。俳優が皆素晴らしい。

ジェレミー・レナーが名優だということを皆忘れないで・・・!アベンジャーズのあまり出てこない人というだけじゃないの!涙はおろか血まで凍りつきそうな極寒の僻地ノワール。地域性と一体になったミステリという部分が面白く、かつやりきれない。

こんなに恐ろしい恋愛映画あります・・・?何から何まで不穏。朝子のある種の正直さも、「世間」のルールを揺るがすという意味では不穏なのだ。すばらしい。tofubeatsによる音楽も良かった。

こちらもまた恋愛映画と言えるだろうが、よりプライベートな、恋愛という枠に嵌まりきらないものを描いているように思う。自分の宝物としてそっとしまっておきたくなる作品。

美しい恋愛映画だが私の中では夏休み映画としての側面が強い。この夏だからこそのキラキラ感と高揚感であり、来年の夏には再現できないし夏が終わればこの関係も終わるのだ。

男女の友情は普通に成立するよとさらっと見せている所がいいし、恋人との関係もそれぞれ独立しておりフェアな描写がよかった。経済的にも家庭環境も恵まれているとは言えないパティだが、自己肯定感がちゃんとあると思う。

爽やかでいい青春映画だった。心が洗われる・・・。レオナルドが自身のセクシャリティに気付いていく部分が面白かった。そこも含めての成長物語。ガブリエルが自分の不注意な言動にすぐ気付いて謝るところもいい。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-12-05





ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 ブルーレイ+DVDセット[Blu-ray]
メリル・ストリープ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2018-09-05



アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル[Blu-ray]
マーゴット・ロビー
ポニーキャニオン
2018-11-21




スリー・ビルボード 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]
フランシス・マクドーマンド
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-06-02




ウインド・リバー [Blu-ray]
ジェレミー・レナー
Happinet
2018-12-04


心と体と [Blu-ray]
アレクサンドラ・ボルベーイ
オデッサ・エンタテインメント
2019-02-20



彼の見つめる先に [DVD]
ジュレルメ・ロボ
TCエンタテインメント
2018-12-07














『2018年ベスト本』

相変わらず今年の新刊よりも昨年、一昨年の新刊を読むことが多いのだが、本のいい所は待っていてくれる所だから・・・。

1.『ノーラ・ウェブスター』コルム・トビーン著、栩木 伸明
 自分はどのような人間か、1人の女性が再度掴み直していく様が、瑞々しくユーモアを交えて描かれていた。自分の子供時代と被るところもあり余計に刺さった。

2.『ふたつの人生』ウィリアム・トレヴァー著、栩木伸明訳
 奇しくも上位2作がアイルランドの小説で翻訳家が同じだった。あったかもしれない人生が胸をえぐってくる表題作にやられた。きつい・・・。

3.『ビューティフル・デイ』ジョナサン・エイムズ著、唐木田みゆき訳
 殺伐さを感じる域までそぎ落とされた文章のスタイルが大変好みだった。ストイックだがどこかしらユーモラスさも感じさせる。映画化された作品だが私は原作小説の方がコンパクトで好き。

4.『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』ケン・リュウ編、中原尚哉他訳
 中国SFきてるな!すごく勢いとセンスの良さを感じるバラエティに富んだアンソロジー。これは今後も期待してしまう。

5.『港の底』ジョゼフ・ミッチェル著、上野元美訳
 こんな文筆家がいたのか、と新鮮な気持ちになった。1940~50年代のNYで生きる労働者たちの姿を描いたエッセイ集だが、小説のような味わいがある。その時代の街とそこに住む人々の息吹が生き生きと感じられる。

6.『花殺し月の殺人 インディアン連続殺人とFBIの誕生』デイヴィッド・グラン著、倉田真木訳
 こんなとんでもない事件が実際にあったなんて・・・。読み進めるほどに愕然とする。ある条件や先入観があれば、人間はいくらでもひどいことをしてしまう。事件の根っこは未だに深く根絶されてはいない。大変な力作ルポ。

7.『傍らにいた人』堀江敏幸著
 今年は新刊ラッシュだった著者だが、主に文学者や小説の作中の人物にスポットを当てた本作が一番読み応えがあった。優れた文学批評でもあり、取り上げられている作品を読みたくなる。

8.『IQ』ジョー・イデ著、熊谷千寿訳
 私にとって今年一番のキャラクター小説。クールかつ生真面目なIQことアイゼイアと、トラブルメーカーで俺様体質だがどこか憎めないドットソンの不協和音。続編あるようなので楽しみにしている。

9.『オンブレ』エルモア・レナード著、村上春樹訳
 表題作よりも『3時10分ユマ行き』を推したい。映画化された作品(『3時10分、決断の時』ジェームズ・マンゴールド監督)が私は大好きでですね・・・。

 帰ってきた探偵・沢崎、そして原尞先生。私にとって今年最大のイベントだったからね・・・。




ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)
ジョナサン エイムズ
早川書房
2018-05-19









港の底 (ジョゼフ・ミッチェル作品集)
ジョゼフ ミッチェル
柏書房
2017-11-01



傍らにいた人
堀江 敏幸
日本経済新聞出版社
2018-11-02


IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー イデ
早川書房
2018-06-19


オンブレ (新潮文庫)
エルモア レナード
新潮社
2018-01-27


それまでの明日
原 りょう
早川書房
2018-02-28



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