3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『勝手にふるえてろ』

綿矢りさ著
 26歳の江藤良香は経理担当の会社員。中学校の同級生(だが卒業以来会ったことがない)イチに延々と片思いを続け、恋愛経験はない。会社の同僚に熱烈なアプローチをされて付き合い始めるが、イチのことが忘れられない。良香は理想の恋と現実の恋との間で右往左往する。
 映画化されたものがとても面白かったのだが、原作はこういう感じだったのか!「映像化するとこうなるのか!」じゃなくて「文字化するとこうなるのか!」という本来とは逆の面白さを味わってしまった。とは言え良香の一人称で、彼女の妄想と現実に読んでいる側も振り回されていく所は同じ。小説の方が映画よりも客観的な感じがするのは、映画を見るより小説を読むほうが没入感が薄い(私にとっては)からかな。題名でもある「勝手にふるえてろ」という言葉の使い方が映画とは全然違うところも面白かった。そしてニがニでなく呼ばれる瞬間にはっとする。2人の関係がはっきり変わったことがわかるのだ。

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢 りさ
文藝春秋
2012-08-03


勝手にふるえてろ [DVD]
松岡茉優
Sony Music Marketing inc. (JDS) = DVD =
2018-06-06


『羊と鋼の森』

宮下奈都著
 山で育った外村は、高校生の時に学校のピアノの調律を目の当たりにし、自身も調律師を目指す。専門学校を卒業し、調律師として江藤楽器店に就職した外村は、先輩調律師の柳や、調律を目指すきっかけとなったベテラン調律師の板鳥と働くようになる。2016年、第13回本屋大賞受賞作。
 外村は山で育ち、世間知らずと言えば世間知らずで自分の世界が狭い。しかし彼は山のイメージ、森のイメージを生活の中でもピアノの音に対しても持ち続けており、そういう面では世界に広がりがある。・・・というふうに描きたかったのかもしれないが、どうにも浅いし薄い。どういう音を目指しているのか、ここでどういう音楽が流れているのかという説得力が希薄。双子の少女の演奏に対する姿勢もやたらとあっさりとしており表層的に思えた。どろどろしていればいいってものではないが、薄味すぎでは。ふわふわとしたイメージの断片を繋げただけで、軸となるものが弱い気がする。調律の専門学校ではどういう勉強をするのか、調律作業がどういう手順で行われるのかという具体的な部分は悪くないが。

羊と鋼の森 (文春文庫)
宮下 奈都
文藝春秋
2018-02-09






『陸軍中野学校』

 昭和13年10月、三好次郎(市川雷蔵)ら18名の陸軍少尉が、九段の靖国神社に集合した。彼らは草薙中佐(加東大介)が極秘裏に設立した日本初の秘密諜報機関員養成学校、陸軍中野学校の第一期生として集められたのだ。入学する者は外部との連絡を一切絶ち、戸籍もなくし、今後偽名で通さなければならない。三好には母と婚約者の雪子(小川真由美)がいたが、彼女らには行き先不明の任務と告げたきりだった。監督は増村保造。
 スパイもの、というよりスパイ学校ものなのだが、スパイに必要な技能を生真面目に学ぶ様が妙に面白い。刑務所から金庫破りのプロを召喚して錠前の開け方を学んだりするのだ。他にも各種機械の組み立て修理や毒薬の扱い、暗号解読、拷問等色々な授業があるのだが、教師はどこから連れてきたのかとか、教師に対する口止めはどのようにしていたのかとか、色々気になってしまった。
 草薙中佐の中野学校にかける思いは熱く、当時の「頭の固い」軍では育てられない人材を作り出そうという意欲に満ちている。しかし、学校が訓練機関として機能していくと共に、従来の軍隊の体質とさして変わっていない面が露呈していくのがなかなかきつい。その場の盛り上がり、空気の読みあいで物事が決定してしまう薄気味悪さがある。このあたり、当時はどういう風に見られていたのだろうか。草薙は「去りたい者は去っていい」「俺を恨むか」と問うが、仮に当人にその気はなくても、異論は封殺される空気が醸し出されちゃってるんだよなぁ・・・。草薙も、それを見越したうえで熱血パフォーマンスをしているようにも見えるのだ。切腹の件など、あー日本って!とげんなりする。この前近代感!
 三好と雪子との期せずしてのすれちがいの悲劇は、メロドラマ性が高くてスパイ要素とはまた違った面白さがある。淡泊な三好に対し雪子が意外と情熱的で情念をにじませており、悲劇が際立っていた。なお、昭和13年が舞台で、戦争の為に調味料などが不足しているという描写があるのだが、雪子やバーの女性達の服装は結構おしゃれ。映画的な演出なのかもしれないが、洋服のデザインに凝る余裕はまだあったということなのかな。

陸軍中野学校 [DVD]
市川雷蔵
角川書店
2012-06-29



『ある殺し屋』

 大映男優祭にて鑑賞。森一生監督、1967年作品。表の顔は小料理屋の主人、裏の顔は腕利きの殺し屋である塩沢(市川雷蔵)は、木村組の依頼で対抗組織である大和田組のボスをしとめる。彼の腕前を見た木村組の前田(成田三樹矢)は、塩沢においしい話があると持ちかける。大和田組が扱う麻薬を横取りしようというのだ。原作は藤原審爾の『前夜』。
 市川雷蔵といえば時代劇での超絶美形っぷりのイメージが強いので、素顔だとこんなに地味なのか!とまずびっくりする。これはすれ違ってもわからないだろうなぁ・・・。しかしその地味さ、はっきりとした特徴のなさが、本作の殺し屋という役柄には合っていた。どこにでもいるようでいて、立っているだけで妙な圧を出してくる。得体のしれなさが漂っている。あえてそういう雰囲気を出す演技をしているという風でもないのだが、不思議な俳優だよなー。
 冒頭から、この人(達)は何をしようとしているのか、どういう関係なのかをストレートには説明しない。新しい登場人物が登場するとちょっと時間を戻して、この人とはどういう関係なのか見せ、また現在進行している事態に戻って、というような時間をいったりきたりする構成だ。この構成、ぎこちなくもあるのだが、一体何が起きているのかという見ている側の興味を引っ張っていく。ちょっとフィルムノワールの小品ぽいざらついた雰囲気があって悪くない。主な舞台が湾岸(多分羽田近辺)なのだが、当時の埋め立て地帯ってこんなに何もなかったのかという、時代を垣間見る面白さもあった。

ある殺し屋 [DVD]
市川雷蔵
角川書店
2012-11-16





『アンロック 陰謀のコード』

 CIAの尋問官だったアリス・ラシーン(ノオミ・ラパス)は、尋問相手から情報を引き出せずテロ犠牲者を出してしまったことに責任を感じ、ロンドン支局へ移動。ケースワーカーとして移民の就労支援をしつつ、ロンドン支局担当者に提供する情報を探っていた。ある日CIAに呼び戻され、ある尋問を依頼されるが、それはCIAを装った偽物だった。監督はマイケル・アプテッド。
 ラシーンの元上司ラッシュ役がマイケル・ダグラス、CIAヨーロッパ部門部長ハンター役がジョン・マルコビッチ、ロンドン支局長ノウルズ役がトニ・コレットと、脇役が妙に豪華かつ渋い。そしてラシーンと行動を共にするようになる男オルコット役がオーランド・ブルーム。ハリウッド映画でよく見る俳優をちりばめているが作品の雰囲気はあまりハリウッドぽくなく、小粒で地味な印象。事件の真相が二転三転していくが、脚本が精緻というよりは、スピード感でなんとか乗り切っているという感じ。スピード重視で余計な説明を省いていくあたりは良かったが、複雑なように見えて、結構雑というか脇のあまりストーリー展開だ。CIAの対応が意外とずさんなあたり、妙なリアリティがあると言えばあるのかもしれないが・・・。
 ラシーンは過去のテロ事件の際、尋問が上手くいかなかったことに強い自責の念を持っている。その為、今回は絶対に失敗できない、犠牲者は絶対に出さないという気負いがある。対して彼女の上司、元上司たちにはそういった気負いはあまり感じられない。もちろん彼らもテロ防止にやっきになってはいるが、彼らにとって被害の規模は数字上のものだ。ラシーンにとっては具体的な個人であり、ケースワーカーとして接したうちの誰かがテロリスト予備軍であり被害者予備軍であるかもしれない。ラシーンの表向きの職業をケースワーカーとしたのは、ストーリーの動線上の都合で深い意図はないのかもしれないが、現場感の差異みたいなものを出す効果はあったんじゃないかと思う。

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2018-03-02


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『リズと青い鳥』

 北宇治高校吹奏楽部の部員で、オーボエ奏者の鎧塚みぞれ(種崎敦美)とフルート奏者の傘木希美(東山奈央)は中学時代からの親友同士。2人とも3年生となり、高校最後のコンクールを控えていた。コンクールでの演奏曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートのかけあいのパートがあり、みぞれと希美が奏者に選ばれた。しかし2人の掛け合いはなかなかうまくかみ合わない。テレビアニメ『響け!ユーフォニアム』の完全新作劇場版。製作はTVシリーズと同じく京都アニメーション、監督は山田尚子、脚本は吉田玲子。原作は武田綾乃の小説。
 京都アニメーション作品は輪郭線がどんどん細くなっていく傾向にあるようだが、本作の動画の輪郭線は本当に繊細。良質の、往年の少女漫画という印象だ。人間の動きの演出もとても丁寧で、特に手の動きの演出は凝っている。体の重心移動の微妙な表現なども細やかだ。山田監督がよく使う、あえてカメラのフォーカスをぼやかせるような演出は、これ必要かな?と疑問に思う所もいくつかあったが。
 吹奏楽部が舞台だから当然音楽は大きな要素なのだが、吹奏楽部が演奏する音楽以外の劇伴も、さりげなく良い。また、鳥の声や木々のざわめき、衣擦れや足音など、日常の中の音、生活音の演出が非常に冴えている。特に(題名からして鳥がキーだし)鳥の姿を使った演出が随所にあるのだが、鳥の鳴き声の入れ方にこの季節、この時間帯での聞こえ方という雰囲気が出ていてとても良かった。音響の良い環境で見るといいと思う。
 みぞれと希美の関係は、作中絵本であり楽曲である「リズと青い鳥」に登場するリズと少女との関係に重ねられていく。みぞれは「リズと青い鳥」を読んで、愛する者を手放す=自由にすることなんてできない、リズの気持ちがわからないと悩む。彼女にとってはリズ=自分、引っ込み思案な自分をひっぱり続けてくれた眩しい存在である希美=少女だ。しかしこの関係は後半で反転していく。みぞれと希美はお互いに自分が相手を縛っているのではと感じているのだ。何を持って相手を縛っているとしているのかは、2人の間でちょっとずれているのだが。このずれは、才能の度合いによるところが大きく、それが本作を美しくも微量に苦いものにしている。
 TVシリーズでも明確に提示されているのだが、みぞれには音楽の才能がある。彼女はおそらく音楽と共に生きていく人で、音大への進学を教師に勧められるのも頷ける。対して希美は、部活としては上手いというレベルだ。後輩の高坂(安済知佳)がみぞれを問い詰めるシーンがあるが、彼女のように何よりも先に音楽が来る人、「持っている」人には、みぞれの態度は音楽に対する不誠実さに見えてしまうのだろう。みぞれが自分の音楽を掴むことこそが、本作のクライマックスであるように思った。それは、希美と今までのように一緒にはいられないということでもある。しかしみぞれの音楽の一部は希美であり、2人が親友であることに変わりはないのだ。






『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』

 (極力ネタバレしないように書いたが絶対にネタバレ嫌な人は読まない方がいいかもしれない)
 6つ集めれば世界を滅ぼすほどの力を手にすると言われる、インフィニティ・ストーン。宇宙中に散らばっていたインフィニティ・ストーンを集め、全宇宙の生命の数を半分に減らそうと企むサノス(ジョシュ・ブローリン)が、とうとう地球に向かってきた。アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)らアベンジャーズに加え、異変に気付いたドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバーッチ)やワガンダ王国のティ・チャラ王(チャドウィック・ボーズマン)らも一体となって脅威に立ち向かうが。監督はアンソニー&ジョー・ルッソ。
 時系列的には『マイティ・ソー バトルロイヤル』の直後に当たるのだが、本作の方がむしろラグナロク(『ソー バトルロイヤル』の原題)ぽい。アバンの段階でいきなり大変なことになり(おそらくここで心を折られる人が多数いると思われます)、最後はもっと大変なことになる。見終わって、これ続きどうするの・・・と途方にくれた。そして監督と脚本家(クリストファー・マルクス&スティーブン・マクフィーリー)の度胸に唸り、かつ彼らの胃に穴が開いていないか心配になった。観客が次作までついてきてくれるであろう、1年待ってくれるであろうという確信がないと、なかなか出来ないストーリーの締め方(というかまだ締められていないわけだが・・・)だ。
 今回、主要キャラクターの数はシリーズ最多、本作で処理しなければならない出来事がやたらとあるにもかかわらず、アベンジャーズシリーズの中では最もストーリー構成、画面構成共に整理されており見やすい。複数のエピソードが様々な場所で同時進行しているのだが、意外ともたつきや混乱がなくすんなりと見ることが出来た。また、1作目、2作目ではアクションの山場が続きすぎて逆に平坦に見えてしまう、見た目がごちゃごちゃしてしまうという問題があったのだが、かなり改善されていた。アクションシーン自体が1,2作目よりも減っているのかもしれないが、画面構成やアクション動線の管理が上手いのだと思う。『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』でも同じことを思ったので、ルッソ兄弟って画面上の整理整頓が上手いんだろうな。
 本作、アベンジャーズシリーズの総決算というよりも、再構築に入る準備段階のようだった。ラストから察するに、今後はマーベルユニバース自体に対するメタ的な視線が入ってくるのではないかと思うが、それってマーベルユニバースが肥大化しすぎた反動とも言えるのではないだろうか。ともあれ続きが気になる。

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2018-04-04



『暗い越流』

若竹七海著
 凶悪な殺人犯に、ファンレターが届いた。「私」は弁護士の依頼を受け、差出人は何者か調べ始めたが、その女性は5年前に失踪していた。表題作の他、探偵・葉村晶シリーズ2編を含む中短編集。
 表題作の題名が象徴的だが、人の心の暗い部分が浮き上がってくる話ばかり。暗さの度合いや経緯を書き込める長編とは異なり、作為が目立ちすぎ、ちょっと露悪的なように思った。短編ミステリだとどうしてもまとまりのいいインパクトやトリッキーさが強調されがちだからだろう。面白いことは面白いけど、後味の悪い短編ミステリという枠から出てこない。

暗い越流 (光文社文庫)
若竹 七海
光文社
2016-10-12


御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)
若竹 七海
中央公論新社
2014-06-21

『ジャック・グラス伝:宇宙的殺人者』

アダム・ロバーツ著、内田昌之訳
 遥か未来の太陽系、人類はウラノフ一族を頂点とする階層制度に組み込まれていた。その制度を脅かす宇宙的殺人者ジャック・グラス。彼が遭遇する事件は、絶対不可能に思えるものばかりだった。プロローグでいきなり「読者への挑戦」をかましてくる、ただし犯人はジャック・グラスに確定されているというなかなかの見得のきり方。
 著者にとっては古典SFと古典本格ミステリの融合を目指した作品だそうだが、SF要素はかなりハード、対してミステリ要素は一歩間違うとバカミスという(特に1本目のオチはそ、それ大丈夫なの~?!と吹きそうになる力技)かなり奇妙な味わい。しかしミステリとしての解答がSF設定と合致している、SFあありきのミステリなあたり、やはりSF濃度の方が高いんだろうなぁ。作中、流れ出た血が地面に平べったくなっているのを見て登場人物が違和感を感じるシーンがあるのだが、基本無重力に近い世界なので、液体は粒上になって空中に浮遊する、「地面に血が流れる」という現象自体が滅多にないということなんですね!




『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲』

久賀里世著
 歌手だった母親を亡くしたオーランドは、名門である亡き父の一族に疎まれ、北イングランドの寄宿制神学校に送られる。学校へ向かう汽車の中で、風変りな少年が声をかけてきた。かつて汽車の中から姿を消した子供が、生者を道連れに誘うのだと言う。若き日のラフカディオ・ハーン=小泉八雲が怪異を解き明かす連作集。
 ハーンは作中ではパトリックという名で呼ばれており(ハーンの出生名はパトリック・ラフカディオ・ハーン)、彼が作家「ラフカディオ・ハーン/小泉八雲」になる前の青春譚とも言えるだろう。性格等のキャラクター造形はほぼオリジナルと言ってもいいと思うが、生い立ちや目が悪かったこと等は史実通り。日本への憧れに繋がる伏線も出てくる。古典作家の「キャラ」化が最近盛んだが、八雲は実際に相当クセのある人だったみたいだし、キャラ化に向いているのかも。
 妖怪・幽霊譚を取り入れたミステリは、「この世」が担当する部分と「あの世」が担当する部分の兼ね合いが難しいように思う。本作も、これだったら全部妖怪・妖精の仕業にしてしまってもいいのでは、あるいはオカルトを否定するミステリとしてもいいのではという部分があり中途半端な印象はある。とは言え、遭遇する怪異を通してオーランドが母親に対する思いのわだかまりをほどいていく過程や、学園ドラマ的な同級生とのやりとり等はこなれていて読ませる。



小泉八雲集 (新潮文庫)
小泉 八雲
新潮社
1975-03-18

『声優 声の職人』

森川智之著
 1987年のデビュー以降、声優として第一線で活躍し続け、アニメの他に洋画吹替えの実績も多い著者が語る自身のお仕事歴と声優という職業。
 巻末の著者出演作一覧が圧巻のタイトル数。著作というより、聞き取りを文字起こししたような、敷居の低い読みやすさ。近年、人気声優による新書が複数リリースされているが、まさか岩波新書から出るとは・・・。内容は声優という職業に多少興味がある人にとっては特に新鮮味はないのだろうが、最近の業界傾向が垣間見える所、そして事務所社長でもある著者が考えるマネージメントの役割等に言及している所は面白い。最近の若手声優は声質、演技の方向性がわりと均一だなーという印象だったが、同業ベテランから見てもそうなんだな・・・。また洋画吹替え仕事が多い、何と言ってもトム・クルーズ声優である著者ならではのエピソードも。声優志望者がまず心がけることとして、「日本語をきちんと読み・喋れること」を挙げているのは盲点だった。普通のことすぎると思っていたけど、文章を正しく読む(文字通りの読む行為でもあり、文脈を理解する行為でもある)・全部の音をむらなく発声するのが必須だと言う。国語の勉強をちゃんとしろ!というとても基本的なアドバイスがあった。
 そして帝王森川といえばBLのお仕事だが、BL関連の章に掲載された写真に対する編集者註が他の章と比べて妙に饒舌、かつBLCDは編集者私物とわざわざ但し書きがあり、えっ岩波・・・ってなった。

声優 声の職人 (岩波新書)
森川 智之
岩波書店
2018-04-21


声優魂 (星海社新書)
大塚 明夫
講談社
2015-03-26

『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』

 学校で居残りをさせられていた高校生スペンサー(アレックス・ウルフ)、フリッジ(サーダリウス・ブレイン)、ベサニー(マディソン・アイスマン)、マーサ(モーガン・ターナー)は、ジュマンジというソフトが付いた古いTVゲーム機を見つける。さっそく遊び始めるが、TVゲームの中に吸い込まれ、各自選択したキャラクターの姿になっていた。スペンサーたちはブレインストーン博士(ドゥエイン・ジョンソン)、動物学者のフィンバー(ケビン・ハート)、地理学者のオベロン教授(ジャック・ブラック)、格闘技の達人ルビー(カレン・ギラン)となって、現実世界に戻る為ゲームクリアに挑む。監督はジェイク・カスダン。
 1995年に製作された『ジュマンジ』の続編だが、まさか今になって続編を見ることになるとは・・・。前作はそんなに面白いと思わなかったのだが、本作は「アバター」役の俳優たちの演技の達者さもあり、なかなか楽しかった。とにかく気軽にさくっと見られて、気分よく見終われる所がいい。中身はナードで言動がビビリなジョンソンや、見た目はぽっちゃりおじさんなのに言動はイケてる女子なブラックはとてもよかった。特にブラックは、彼が演じることでベサニー本来の人の良さがよりにじみ出ており、キャラクター造形が成功しているように思う。
 ゲーム世界内の設定は「ゲーム」としての厳密さがゆるく、どちらかというとディティールが「ゲームっぽい」という程度なのだが、高校生たちの不調和音チームものとして楽しかった。(言うまでもなく『ブレックファスト・クラブ』という名作があるが)アメリカ人は補習・居残りものという映画ジャンルが好きなのだろうか。最近だと『パワーレンジャー』も補習から始まっていたし。自分とは全く別ジャンルの人と出会う機会として手っ取り早い設定ではある。
 本作では自分とは別ジャンルの人と一緒に行動するだけでなく、自分自身のアバター(ゲーム上でのキャラクター)が本来の自分とは全く違う姿・能力を持つので、自分もまた他者になっているとも言える。他者を体験することで、他人の立場を想像できるようになっていくのだ。同時に、見た目や能力が変わっても本来の自分の資質は変わらないということと、見た目に引っ張られて内面も変わることがあるという部分の兼ね合いも丁度よく提示されているように思う。ブレインストーンが発揮する勇気は、元々スペンサーの中にあったものなのだろう。
 ゲームの中の体験が現実にもちゃんとフィードバックされるラストがいい。特にベサニーがある人物と会った時の双方の対応にはちょっとほろりとさせられる。そしてある人物のTシャツの趣味が一貫しているところにほっとしましたね!

ジュマンジ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
ロビン・ウィリアムズ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2015-12-25


ザスーラ [DVD]
ジョシュ・ハッチャーソン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2006-04-16

『女は二度決断する』

 ハンブルグでトルコ移民の夫ヌーリ(ヌーマン・アチャル)と幼い息子と暮らすカティヤ(ダイアン・クルーガー)。しかし爆発事件によりヌーリと息子が死亡してしまう。事件の捜査が進み、ネオナチのドイツ人男女が容疑者として逮捕された。カティヤは正義が行われることを信じ、弁護士のダニーロ
(デニス・モシット)と共に裁判に臨むが。監督はファティ・アキン。
 題名に「二度決断する」とあるが、あれかこれか選んで決断するというよりも、この人にはもうこの道しか残されておらず、その道に準じる決断をするという、選択肢のないものに思えた。周囲から見ればそうではなくても、当事者にとっては他の方法が考えられない。これがとても辛い。
 録画した映像の中で、あるいはカティヤの記憶の中で、家族の楽しげな姿が何度も再現される。また、事件に遭う前のヌーリと息子とカティヤとの関係が、短い時間の中でも生き生きと感じられる。更に、事件後の裁判では、ただでさえ辛い中、ヌーリの犯歴を持ちだされたり、カティヤ自身の薬物使用歴を持ちだされ証言能力を疑問視されたりと、被害者のはずなのに人格を貶められるようなことをされる。カティヤが「決断」に至るまでのパートが結構長いのだが、その長さと密度から、彼女が心の平穏を得るには「決断」するしかなかったのだという結論に至るのだ。
 裁判中のカティヤと舅姑、自分の母とその恋人、また友人とのやりとりには緊張感があり、悲しみを癒しあうという感じではない。カティヤの煙草を吸うペースが速くなり、友人の赤ん坊に対して微妙な表情を見せる所など、細かい所から彼女の憔悴と苦しみが窺える。彼女の苦しみは、この苦しみを共有できる人がいないという所にもある。親族や夫と懇意であった弁護士ももちろん悲しんでいるのだが、カティヤが抱えるものとはやはり違うのだ。周囲に支えられても一人きりであるという、孤独の深さが印象に残る。

そして、私たちは愛に帰る [DVD]
バーキ・ダヴラク
ポニーキャニオン
2009-09-16


消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]
タハール・ラヒム
Happinet(SB)(D)
2016-07-02

『タクシー運転手 約束は海を越えて』

 1980年5月の韓国。民主化を求める大規模な民衆デモが起こり、光州では軍が戒厳令をしき、報道も規制されていた。ドイツ人ジャーナリストのマルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)は取材の為光州へ向かう。彼を送迎することになったタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は報酬欲しさに機転を利かせて検問を突破。何とか光州市街へ辿りつくが。監督はチャン・フン。
 近年、光州事件(と当時の時代背景)を題材にした韓国の文学、映画等が目につくようになったが、映画や小説の題材としてがっぷり取り組むことができるくらいに時間がたったということなのだろうが。何にせよ、自国の負の歴史を再検証し、かつエンターテイメント作品に落とし込める所に韓国映画のタフさ、成熟度を見た感がある。本作、本国でも結構な動員数だったそうなので、映画を見る層の厚さとリテラシーがそもそも日本と違う気がする・・・。
 戒厳令下の光州が舞台で、非常にシリアスな背景なのだが、人情ドラマとして、活劇として、まさかのカーアクション映画として面白かった。もうちょっと短くてもいいなとは思ったのだが(マンソプの動線設定に無駄が多いように思う)、サービス精神旺盛なエンターテイメントだと思う。史実(ヒンツペーターは実在の記者)を元にしているが、絶対にここはフィクションだ!という部分がクライマックスにあり、その絶対にフィクションな部分が本作の核になっているように思った。そこでやっていることは映画としてのフィクションなのだが、彼らの気持ちは当時実際にいた市井の人々の気持ちと同じことなのではないだろうか。
 マンソプは政治には興味がなく、光州のデモについても、学生ならデモなんてやらずに勉強しないと親不孝だと言う(そもそも報道規制がされており電話も遮断されていて光州の実情が外部にはわからないのだが)。「韓国は世界一住みやすい国だ」と言う彼が光州で見たものは、その「世界一住みやすい国」が市民に何を強いているのかという現実だった。どこかの変わった人達の反乱ではなく、自分と同じように普通に生きてきた人が、これはおかしいと声を上げていたのだ。一刻も早くソウルに戻りたがっていたマンソプだが、光州の出来事が彼の中で他人事ではなくなっていく。この他人事ではない感覚、映画を見ている側にとっても同じなのではないかと思うし、そこを狙って作られた作品だと思う。



光州5・18 スタンダード・エディション [DVD]
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2008-12-05

『レディ・プレイヤー1』

 貧富の格差が拡大した2045年。人々はVR世界「OASIS(オアシス)」の中で理想の人生を楽しもうとしていた。オアシスの開発者ジェームズ・ハリデー(マーク・リアランス)は死去の際、オアシス内に3つの謎を隠した、解明した者に莫大な資産とオアシス運営権を譲渡するとメッセージを残した。17歳の少年ウェイド(タイ・シェリダン)も謎解きに参加し一つ目の謎を解くことに成功、一躍オアシス内の有名人になる。しかしハリデーの遺産を狙う巨大企業IOIが彼に近づいていた。原作はアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』、監督はスティーブン・スピルバーグ。
 2045年という未来設定なのに、なぜか80年代サブカルチャーのてんこ盛りで色々突っ込みたくなる。予告編からしてヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」大フィーチャー(本編でも使用されている)だし世界設定といい、デザインといい、2010年代に想像した未来ではなく、1980年代に想像した未来という感じで、これを90年代以降に生まれた世代はどう見るんだろうと不思議だった。とは言え、あの作品のあのキャラクター、あの小道具等が次々と登場するのは楽しい。日本からの出演も相当数あり、これはぐっと来てしまうであろうというショット多々。ラスボス的存在登場前、客席に「もしやこれは・・・!」的緊張感が走り、登場すると「やっぱりねー!」と場内温度が高くなった気がした。メインテーマまで使っているなんて・・・。
 ストーリーやVR世界の設定には特に目新しさはなく、ビジュアルの賑やかさ、情報量のみで楽しめてしまう。ただ、VRの世界に耽溺せず現実に帰れというのではなく、VR、つまりフィクションが豊かである為には現実世界の豊かさが必要であり、現実が豊かである為にはVR・フィクションも豊かでなくてはならない、双方が呼応し合っているのだというテーマは、フィクションとエンターテイメントの世界で一時代を築いた(まだ築き続けているとも言える)スピルバーグらしい。VRに対しても現実に対してもポジティブだ。

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
アーネスト・クライン
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2014-05-17


アヴァロン [Blu-ray]
マウゴジャータ・フォレムニャック
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2008-07-25

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