3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『セリーナ 炎の女』

 特集上映「未体験ゾーンの映画たち2018」にて鑑賞。1929年、ジョージ・ペンバートン・ブラッドリー・クーパー)はノースカロライナのグレート・スモーキー山脈の麓で製材所を経営していた。彼はある日、火事で家族を失い天涯孤独の身になったセリーナ(ジェニファー・ローレンス)と出会い恋に落ち、結婚した。元々製材所の娘として育ったセリーナはビジネスにも才覚を現していくが、ある事件が起きる。監督はスサンネ・ビア。
 ジョージの行動の悪気のない思慮の浅さ、無自覚な惨酷さや薄情さを、クーパーが上手に表している。こういう役柄にハマる(演技がしっかりしているし、多分顔つきの雰囲気もむいている。顔つきについては本人不本意かもしれないけど・・・)俳優だと思う。ハンサムで人懐っこさがあるけどちょっと無神経ぽい雰囲気が出ている。ジョージとしては悪気はないが、彼の行動のせいで周囲のパワーバランスが激変してしまう。彼の行動イコール悪というわけではないので、周囲も積極的に彼を責めることが出来ない(ある女性は存分に責めてしかるところだと思うが)のがまた辛いのだ。
 セリーナもジョージに翻弄されたように見えるが、彼女自身は翻弄されたという意識はないだろうし、翻弄されるようなタイプでもないように思える。彼女はタフで商売の才覚やリーダーシップを持ち合わせ、ジョージに対して仕事の上でもパートナーになっていく。実際彼女の言動は頼もしく作業員たちの信頼も得ていくのだが、ある事件により、彼女の精神はガタガタになっていく。正直、このガタガタになっていく原因が彼女が「女」であるという面に頼りすぎていないかという気がした。そんなステレオタイプな!とちょっと不満だった。
 とは言え彼女にとってジョージ(と彼と培うはずのもの)の存在はそれだけ大きく、彼女の傷と向き合いきれなかったジョージが事態を悪化させたと言える。この局面でのジョージの振る舞いは、本人なりに一生懸命なんだろうけどほんとにがっかりさせられる。捨てたはずのものに今更未練を見せて、今共に生きている人を見ないのだ。過去の幻想を追ったことで、ジョージ自身もまた足元を見誤ってしまったように思えた。

真夜中のゆりかご [DVD]
ニコライ・コスター=ワルドー
KADOKAWA / 角川書店
2015-12-04


オーバー・ザ・ブルースカイ [DVD]
ヨハン・ヘルデンベルグ
KADOKAWA / 角川書店
2015-03-06

『苦い銭』

 雲南省からバスと列車を乗り継ぎ、淅江省湖州へと向かう少年少女。湖州には多くの縫製工場があり、出稼ぎ労働者が80%を占めると言われる。この街にやってきて働く様々な人たちを見つめるドキュメンタリー。監督はワン・ビン。
 ヴェネチア国際映画祭でまさかの脚本賞を受賞した作品だが、なるほど出来すぎなくらい構成にドラマ感がある。ドキュメンタリーにも脚本(いわゆるドラマの脚本というよりも組み立て図みたいなものだろうが)はあるのだろうが、こういうエピソードを引き寄せる、またエピソードが出てくるまで粘れるのが監督の力なのかな。撮影期間は1~2年間だそうだが、出稼ぎに来た当時はいかにも田舎から出てきた風の不安げ15歳の少女だったシャオミンが、徐々に「こなれて」くる感じや、一緒に出てきた少年が過重労働に耐えられず故郷に帰っていく様は、それだけで一つのドラマのよう。
 また、DV気味の夫と妻の関係が、最初は一触即発みたいな感じだったのだが、後に再登場した時には何となく改善された雰囲気になっている所がとても面白かった。映し出されていない間に何があったんだ!自営の店を辞めて衣料品の搬出の仕事を夫婦でするようになったみたいなのだが、一緒に働くという状態が良かったのかなぁ。妻にケチだケチだと言われていた夫が、後々(不満を言いつつ)親戚に仕送りしているらしいのには笑ってしまった。
 画面に映し出されるどの人にも、それぞれの仕事があって生活があるんだという濃厚な空気が漂っている。とは言え、文字通り「起きて仕事して食事して寝る」生活なので、働くことがあまり好きでない私は見ていて辛くなってしまった。彼らは安い労働力として扱われており低賃金なので、仕事の量をこなさないと生活できない。自分は量をこなせないから・・・と自虐気味の男性の姿にはいたたまれなかった。安価な商品てこういう労働に支えられているんだよなと目の当たりにした気分になる。とは言え、ここでの仕事がだめだったら他へ移るまで、というひょうひょうとした雰囲気も漂っており、予想ほどの閉塞感はない。これもまた一つの人生、という諦念が感じられるからか。

三姉妹 ~雲南の子 [DVD]
紀伊國屋書店
2014-03-22


収容病棟 [DVD]
紀伊國屋書店
2015-02-28


『ぼくの名前はズッキーニ』

 母親が死亡し、施設に入ることになった9歳のズッキーニ(カスパール・シュラター)。施設にはリーダー格でちょっと意地悪なシモン(ポーラン・ジャワー)を始め、それぞれ異なる事情を持つ子どもたちが集まっていた。ズッキーニは新たに入居してきた少女カミーユ(シクスティーヌ・ミュラ)に一目惚れする。監督はクロード・バラス。
 丁寧に作られたストップモーションアニメで、単なる可愛らしさからちょっとはみ出すキャラクターのデザインが、決して甘くない物語とマッチしている。冒頭、ズッキーニの母親の死に方がいきなりヘビーなのだ。ズッキーニが背負っているものがあまりに重い。しかしそこを取り立ててクローズアップするわけではない。ズッキーニ以外の子どもたちも、親に健康上の問題があったり、子供に性的暴力を振るったり、犯罪者であったり、不法入国者として強制送還されたり(これは正に現代の話だなと実感した)とそれぞれに問題を抱えている。親の難点がかなりシビアでぼかさず言語化されるが、彼らに対しても、そこを深堀するわけではない。一貫して退いた目線がある。この施設に入所している、という点では子どもたちは皆同じなのだ。
 子どもたちの保護者には色々と問題があり、彼らを守る存在になり得ていない。しかし一方で、子どもたちを大人として支えようとする人たちもいる。ズッキーニを施設に連れてきた警官は、その後も度々、彼との面談に訪れ、遊びに連れ出したりもする。警官にも息子がいるが、家を出て断絶状態だ。彼とズッキーニは家族に見捨てられた者同士とも言える。また、施設の職員たちも子どもたちの為に尽力していることがよくわかる。ステレオタイプ的な「施設のいじわるな大人」ではない。ベタベタした優しさではないし、実の親の代わりにはなれない、それでもプロとしての愛と責任感を持って子どもたちと接しているのだ。雪山のロッジでの「クラブ」の光景にはちょっとぐっときてしまった。子どもたちを教える、育てるだけでなく、ちゃんと生活を楽しませようとしているんだなと。
 施設はやがて出ていく場所だが、いつ、どのような形で出ていけるのかはわからない。望んでいた形では出られない、あるいは大人になるまで出られない子もいるかもしれない。楽観視はさせないながらも、それでも人生には可能性があり、あなたは一人ではないと思わせるラストのさじ加減に誠実さを感じた。

冬の小鳥 [DVD]
キム・セロン
紀伊國屋書店
2011-06-25


小鳥はいつ歌をうたう (Modern & Classic)
ドミニク・メナール
河出書房新社
2006-01-11



『星群艦隊』

アン・レッキー著、赤尾秀子訳
 ブレク率いる艦隊が滞在していたアソエク星系にも、ラドチの絶対的支配者である皇帝アナーンダが引き起こした戦火が及ぶ。無人のはずの隣接星系に謎の艦が現れ、更に強力な異星種族プレスジャーがコンタクトしてくる。数々の問題にブレクは捨て身で立ち向かっていく。
 『叛逆航路』3部作の完結編。このシリーズ、面白いが非常に読みづらかった。世界観がわかりにくいというよりも、対立している集団同士の関係性と、現在何が進行しているのか、世界のスケール感がどの程度のものなのかが把握しにくいのだ。ストーリーの説明が難しい!アナーンダの権力の及ぶ範囲が、今まで聞いていたのと本作で描写されているのと何か違わない?と微妙な気分になった。ただ、艦隊に附属する“属躰”(身体を持つAIのようなもの)であったブレクが、一個人としての意識を持つようになる、更に彼女に感化され、他のAIたちも“個”に目覚めていく、加えてAIたちにとっての“個”は、人間のそれとは少々違うという様が面白い。ここにきて大きく設定が動いたな!という感じ。また新しい種族が誕生していく予感がするのだ。

星群艦隊 (創元SF文庫)
アン・レッキー
東京創元社
2016-10-29


エコープラクシア 反響動作〈上〉 (創元SF文庫)
ピーター・ワッツ
東京創元社
2017-01-28

『コンフィデンシャル 共助』

 北朝鮮の偽札工場から印刷用の原版が盗まれた。警官のイム・チョルリョン(ヒョンビン)は、事件の首謀者だった上司により仲間と妻を殺され、復讐に燃える。原版を秘密裡に取り戻すべくソウルに派遣されたチョルリョンは、殺人事件の共同捜査だと信じる刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)と組まされる。ジンテも上司から、チョルリョンの動向を探れと命じられていた。監督はキム・ソンフン。
 オーソドックスなバディものの体で、背景も性格も正反対の2人が反目しつつも徐々に心を開いていくという展開もお約束通り。しかし王道を勢いよくやっており、活気がある。クールでスマートなチョルリョンと、おしゃべりでずんぐりとしたジンテの凸凹コンビはテンプレ的造形ではあるのだが(あとジンテの妻や娘など女性キャラクターが概ね書き割り的なのだが)、お約束はお約束として楽しく、生き生きとしている。
 撮影方法にしろ、ストーリー展開にしろ、下手に捻らずしっかりとしたストレートをちゃんと投げてくる感じ。アクションは銃撃戦、肉弾戦、カーアクションと幅広いが、やはりオーソドックスなことをちゃんとやっているという印象だった。現実の南北を巡る状況には解決の糸口も見えないわけだが、本作の雰囲気は至って明るく、ラストに至るまで軽快。深刻な現実もフィクションの素材として使っていく韓国映画の強さを見た感がある。
 アバン直後、チンピラをジンテが追っているシーンの映像といい音楽といい、昭和の(韓国映画に対して昭和っていうのも変だけど、ふた昔前くらいの感じ)刑事ドラマのようなのだが、これは狙っているんだろうなぁ。特に音楽がこのシーンだけ汗臭いのには笑ってしまった。ジンテのキャラクターを端的に表すシーンでもある。ちょっと野暮ったくコミカルなのだ。北朝鮮の警官であるチョルリョンの方がルックスといい立ち居振る舞いといいスマートで、かっこいいアクションはほぼ彼が担う。いくらなんでも無双すぎ!というシーンもあるのだが、それを含めて見応えがあった。

レッド・ファミリー [DVD]
キム・ユミ
ギャガ
2016-04-28


ハナ 奇跡の46日間 [DVD]
ハ・ジウォン
オデッサ・エンタテインメント
2014-05-02


『亡霊星域』

アン・レッキー著、大野万紀訳
 かつては宇宙戦艦のAIだったが、いまはただひとりの生物兵器“属躰”となったブレクは、属躰であることを隠し長い年月を生き延びてきた。宿敵である星間国家ラドチの支配者アナーンダから艦隊司令官に任じられたブレクは、正体を隠したまま新たな艦で出航する。目的地の星系には、彼女がかつて大切にしていた人の妹が住んでいた。
 『叛逆航路』の続編となるシリーズ2作目。言語上性差がない(全て「彼女」「母」「娘」で表す)文化圏、戦艦には“属躰”と呼ばれる分身のようなものが多数あり、支配者アナーンダは自身の属躰同士で分裂し抗争中という、世界設定がややこしいので、前作の記憶がはっきりしているうちに読むべきだったな・・・。前作は世捨て人のようだったブレクが再起し旅に出るという、動きの大きな物語だった。対して本作は舞台が一つの星系内での政治的ないざこざにブレクたちが巻き込まれていくという話なので、少々こぢんまりとした感じはする。
 とは言え、植民地における支配層と被支配層の関係や、異民族に対する意識等、作品世界の描写は面白い。植民地化した方は文明化だと思っていても、された側にとっては蹂躙であり支配であるということ、支配者層の被支配層への無頓着さが前作以上に際立つ。人間ではないブレクの感覚の方がまともで、この文化の中で生きていた人間たちの感覚の方が偏っているように見えるのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
アン・レッキー
東京創元社
2016-04-21



『悪女/AKUJO』

 犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒ(キム・オクビン)は、やがて育ての親ジュンサン(ヒン・ハギュン)を愛するようになり結婚する。しかしジュンサンは対立組織に殺害あれ、復讐に走ったスクヒは国家組織に拘束される。再教育を受け、10年仕えれば自由になれるという条件で国家直属の殺し屋として新たな生活を始めたスクヒ。彼女に思いを寄せる男性も現れ、新たな結婚生活に踏み出せると思われた。監督はチョン・ビョンギル。
 アバンが結構な長さなのだが、その長さがほぼ主観ショットの長回しによるアクションシーン。主観ショットのアクションというとゲームのイメージが強いので、本当にアクションゲームみたいだなーと思って見ていたら、ある瞬間に客観のショットに切り替わる。その切り替わり方で、あっこれ映画だな、と初めて実感した。こう繋いだのか!ということに何だか感動する。
 全編、アクションをどう撮るか、今までやったことがない撮り方をできないかという部分に注力した作品と言ってもいいくらい、見ていて撮り方の方に意識が持っていかれ、ストーリーもアクションそのものもあまり頭に残らない。過去と現在がフラッシュバックしていく構成がかなりごちゃごちゃしていてあまり構成が上手くないというのもあるのだが、撮り方のユニークさが最もインパクトがある。予告編で使われていたバイクアクション(アクションそのものも、カメラの設置の仕方も)が凄まじいのだが、本編はこれよりもすごいことやってるんだもんな・・・。武器の種類も豊富で、短銃、ライフル、短刀、日本刀、韓国映画といえばコレ!な手斧まで幅広い。もちろん素手も駆使される。
 現在進行しているスクヒの行動は過去の反復であり、彼女はそういう使われ方をする女性であり、そこから抜け出せないという悲しさがある。教育施設内の迷路のような謎の構造(部屋同士の繋がりが不自然すぎる)にしろ、何度かに渡る「捕えられ方」にしろ、ここより他に行くところなし、といった感じの徒労感が漂う。ただ、後半では彼女を使うのは女性であり、その女性もまた行くところなどなさそうに見えるのだが。

ニキータ [DVD]
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ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2015-12-16



『アバウト・レイ 16歳の決断』

 16歳のレイ(エル・ファニング)は女性の体で生まれたが心は男性。心身の性別を一致させ男性として生きる為、ホルモン治療を始めた。転校を前にして手術も希望していたが、両親の同意書がいる。シングルマザーのマギー(ナオミ・ワッツ)はレイの意思を尊重しつつも動揺を隠せない。カミングアウトした同性愛者でパートナーと暮らす祖母のドリー(スーザン・サランドン)はトランスジェンダー自体わかっておらず、「レズビアンじゃだめなの?」と言う始末だった。監督はゲイビー・デラル。
 原題は「3Generations」。レイを中心とした話というよりも、彼を含めマギー、ドリーの3世代間でのギャップと軋轢が描かれる。マギーはレイの幸せを願い、彼と話し合って医者やカウンセラーにも相談し、自身でも勉強している。それでも「娘」として接してきた存在が「息子」になると接し方がわからなず混乱する。ドリーは前述の通りトランスジェンダーと同性愛との違いをよく理解していない。ドリーにとってレイは(生まれた時に付けた名前の)ラモーナであり、「彼女」だ。
 実はマギーはとある事情を抱えており、そのせいもあってなかなか同意書を用意できずにいるのだが、新しい生活を始められる!と喜んでいるレイにそれを言い出せない。同時に、マギーの事情はレイの苦しみを解決しない言い訳にはならない。レイはマギーの事情を理解するかもしれないが、それとこれとは別問題なのだ。マギーの過去を巡るひと悶着を耳にして叫びだしてしまうレイの姿は子供っぽいかもしれないが、まあ叫びたくもなるわな・・・。親の問題は親の間で解決しておいてくれよ!ということだろう。
 家族なんだから分かり合える、という言い回しがあるが、鵜呑みにするのは危険だ。むしろ、家族であっても他人であり、分かり合えない部分は当然あると考えた方がいいだろう。マギーもドリーもレイを愛しており、レイも2人を愛しているが、お互いに全て理解できるわけではない。愛と理解(と受容)は別物なのだ。ドリーの家を出なければならないことをマギーがレイに告げた時の彼の反応と、それを見たマギーの表情が、ああ親子でも常に意思疎通しているわけじゃないもんなぁと痛感させられるものだった。

20 センチュリー・ウーマン [DVD]
アネット・ベニング
バップ
2017-12-06


ファン・ホーム ~ある家族の悲喜劇〈新装版〉~ (ShoPro Books)
アリソン・ベクダル
小学館集英社プロダクション
2017-12-20

『ローズの秘密の頁』

 精神科医のスティーブン・グリーン(エリック・バナ)は、取り壊しが決まった精神病院を訪れた。転院手続きの為、赤ん坊殺しを犯した精神障害犯罪者として40年間収容されているローズ・F・クリア(バネッサ・レッドグレーブ)の診断を依頼されたのだ。ローズは自分の名前はローズ・マクナリティで赤ん坊殺しはしていないと訴え続けてきた。グリーンは彼女が聖書に書き込んだ手記を読み、彼女の話に耳を傾けていく。監督はジム・シェリダン。
 若き日のローズ(ルーニー・マーラ)のロマンスは美しくも過酷なのだが、全般的にはロマンチックな味わいがあり、そこがちょっとユニーク。背景にあるのは当時(第二次世界大戦中)のアイルランドの社会、教会の価値観の偏狭さや自己欺瞞性で、かなり深刻な話なのだが、ローズのロマンスはロマンチックできらきらと輝いている。
 ダブリンから疎開してきたローズは、おそらく当時としては精神的に自立した都会的な女性で、人目を引く美人。男性に対して臆さない(男性の目を見て話し、初対面の人ともダンスする)というだけであばずれ扱いされるなんて!と見ていて大変気分が悪かったが、現代でもこういう見方をする人はいるよな・・・。「彼女が色目を使った」ことにされるというのも、現代でもしばしばあることなのでうんざりする。
 本作、ローズが愛するマイケル(ジャック・レイナー)以外の彼女の周囲の男性は概ねクズなのだが、英国派のマイケルを敵視するIRAはともかく、地元の神父であるゴーント(テオ・ジェームズ)の態度がひどい。勝手につきまとって振られたと思ったらその仕打か!何が聖職者だ!と突っ込みたくなるが、教会の権力って想像以上のものなんだなとうすら寒くもなった。ローズは気丈な性格で普通の男性はさっさと袖にしても、「神父」であるゴーントに対してははっきりとNoとは言えないのだ。教会の意思であれば、非人道的なこともまかり通ってしまう。スティーブン・フリアーズ監督『あなたを抱きしめる日まで』でもアイルランドの修道院の問題が取り上げられていたが、そこと重なる部分がある。ブラックボックス化した大きな組織ってろくなもんじゃないな・・・。

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あなたを抱きしめる日まで [DVD]
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2014-10-02



『RAW 少女のめざめ』

 厳格なベジタリアン家庭で育ったジュスティーヌ(ガランス・マリリエール)は、両親の母校でもある獣医学校に進学。先輩として既に寮生活をしている姉アレックス(エラ・ルンプフ)を頼るが、彼女は様変わりしていた。新入生の通貨儀式として生肉を食べることを強要されたジュスティーヌは、自身の体の変化に気付く。監督はジュリア・デュクルノー。
 上映中に失神者が出るほどの衝撃作との触れ込みで、一部でかなりの高評価だったらしいが、どのへんが衝撃だったのかな・・・?至って普通に少女の成長物語だった。確かに食肉シーンが衝撃なのかもしれないが、作劇的に特に目新しいことをしているわけではないので拍子抜けした。更に言うなら、わざわざ食肉設定を出してくる必要もあんまりない気がするんだけど・・・。
 ジュスティーヌは学校に附属した寮に入るのだが、新入早々「歓迎」の儀式に引っ張り出されたり、セクシーな服を着ることを強要されたり、出来がいいからと教員に因縁つけられたりで、混乱することだらけだ。先輩が絶対的なヒエラルキーのある世界で、優等生だった彼女は異物なのだ。彼女は学校の雰囲気に自分を合わせようとするが、肉食に目覚めたことがきっかけで、更に合わせることが困難になっていく。
 少女が自分を発見し解放されていくというよりも、自分を取り囲む世界との違和感、そして自分の身体との違和感と相対してもがいていく様に思える。学校内の雰囲気がとっても嫌な感じ(先輩に対して「聖なる存在!」みたいにコールさせるのとか、お祭り騒ぎに参加しないと許されない感じとか)ジュスティーヌが本来の自分であろうとすると、必然的に周囲の人々、最も近しい人々を傷つけることになってしまう。これは彼女の身体的なリアクションであると同時に、内面のリアクションでもある。彼女がセクシーな恰好をするのが自分1人だけの時というのも象徴的だった。
 しかしそれをこういう形で表現する必要ってあるのかなという気がしてならなかった。わかりきったことをもっともらしくやられてもなぁ・・・普通ですよとしか言いようがないよ・・・。特に、言うまでもない様なオチの付け方など、もはやコメディ。

ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~ [DVD]
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2016-02-02


静かなる叫び [DVD]
カリーヌ・ヴァナッス
Happinet
2017-10-03




『花木荘のひとびと』

髙森美由紀著
 盛岡市、北上川沿いにある小さなアパート、花木荘。1階に入居している志村こはくは買い物依存症気味で、部屋は荷物で崩壊状態。急に父親が訪ねてくることになり焦っているところを、管理人のトミと2階に入居している時計屋の青年に助けられる。
 花木荘を入居者3人が主人公となる連作短編集。3人とも全然タイプの違う人たちなのだが、人間関係に不器用で自分の感情の処理も苦手。どこか自分の人生、家族に対して負い目がある。そんな人たちがちょっとしたきっかけで交流し、徐々にこわばっていたものがほぐれていく。劇的に何かが変わるわけではないが、そっと背中を押してくれるものがあるのだ。じんわりと心温まる、月並みと言えば月並みなのだが生きることの寂しさが底辺にあるように思う。この生活も人の命もいつか終わるという予感が常にあるからか。


2017-12-14


東南角部屋二階の女 (通常版) [DVD]
西島秀俊
トランスフォーマー
2013-12-25


『壊れた海辺』

ピーター・テンプル著、土屋晃訳
 刑事キャシンは心身共に傷を負い、海辺の故郷に戻って地元の警察署で働き始めた。ある日、慈善事業等でも知られた資産家が自宅で殺される。物取りの仕業と思われ、容疑者として浮上したのは、高価な時計を売りに来たアボリジニの青年たちだった。彼らを追い詰めた警察は、2名を射殺、1名を逮捕。事件は終わったかに見えたが、警察の対応に疑問を感じたキャシンは捜査を続ける。
 オーストラリアを舞台にした作品で、都市部ではないオーストラリアの風土、文化が色濃く見られる。特にオーストラリア先住民であるアボリジニ(作中ではこの表記だが、近年は差別的な響きがある為に殆ど使われない。アボリジナル、アボリジナル・ピープル等と称するそうだ)に対していまだに差別が色濃く時にぎょっとさせられる(本作の舞台は現代)背景、また観光地化に伴う自然破壊問題等も、作中の事件とも関わってくる。やたらと広大で乾燥しており、雄大な大地というよりも荒涼とした土地という感じ。
 本作、文章に独特の読みづらさがある。基本キャシン視線の文章だが、急に過去の事件に言及したり(しかもそれが伏線になっているとは限らない)、キャシンの思考に空白が出来たかのようにシチュエーションが飛躍したりする。物語の主線上でのジャンプが多い感じだ。ただ、このスタイルが本作の持ち味になっている。キャシンは同僚を、そして自分のことも傷つけた過去の事件にことあることに引き戻されるが、この過去に引き戻されるという行為が、本作の中心にある事件の背景にもあるのだ。

壊れた海辺 (ランダムハウス講談社文庫 テ 3-1)
ピーター テンプル
武田ランダムハウスジャパン
2008-10-10




『THE PROMISE 君への誓い』

 オスマン帝国の小さな村に住むアルメニア人青年ミカエル(オスカー・アイザック)は、医学学ぶためにイスタンブールの大学に入学した。親戚の家に身を寄せ都会での生活を送る中で、アメリカ人記者のクリス・マイヤーズ(クリスチャン・ベール)とそのパートナーでアルメニア人のアナ(シャルロット・ルボン)と知り合い親しくなる。第一次大戦開戦と共にトルコ人によるアルメニア人への弾圧は強まり、ミカエルたちもイスタンブールにいられなくなる。監督・脚本はテリー・ジョージ。
 最近ツイストのきいた作品ばかり見ていたからか、本作のようなストレートな作品は却って新鮮だった。王道の大河ドラマ的な味わいがある。歴史のある側面というだけではなく、現在に繋がる話なのだ。アルメニア人虐殺についてはファティ・アキン監督『消えた声が、その名を呼ぶ』にも描かれていたが、本作はほぼミカエル視点なので、なぜ迫害されるのか、虐殺に発展するのかという説明が殆どなく、心当たりがないのに一気に状況が悪化したという感じの怖さを感じた。記者のクリスの方がむしろ状況を懸念し、アナに国外への脱出を勧めたりする。元々の居住地から追い立て、列車で強制移動させる等、ユダヤ人に対するホロコーストとやっていることがほぼ同じなのもぞっとする。
 題名の「PROMISE」には、いくつもの意味が込められている。お互いパートナーがいるにもかかわらず惹かれあうミカエルとアナの、再会の約束であり、ミカエルと故郷に残した婚約者の必ず戻るという約束でもあり、何より、アルメニア人として必ず生き延びる、民族をとだえさせないという自分たちの過去と未来に対しての約束である。
 また、トルコでは「よそ者」であるアメリカ人クリスの決意にも心を打たれた。トルコ人によるアルメニア人虐殺の記事を書き続けるクリスは、軍に捕えられる。自分の記事が間違いだったと署名すれば命は助けると言われるが、彼は署名を拒む。「署名したら記者としての未来がなくなる」と言う彼に、殺されたらそもそも未来がないと友人は呆れるが、もし記事が間違いだと発表してしまったら、彼が記事に書いたアルメニア人たちはいなかったことにされてしまう。生き延びたとしても彼が今後書いた記事は信用されないし、ひいては志を同じくするジャーナリストたちがどのように見られるかというこのにも関わってくる。職責に対しての約束なのだ。

ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション [DVD]
ドン・チードル
ジェネオン エンタテインメント
2006-08-25


消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]
タハール・ラヒム
Happinet(SB)(D)
2016-07-02


『アルテミス(上、下)』

アンディ・ウィアー著、小野田和子訳
 月面都市アルテミスでは、5つのドームに総勢2000人が暮らしている。観光都市の側面が強いこの街では、一部の富裕層の他は、サービス業や住環境のメンテナンス業に従事する労働者。合法、時には非合法の荷物を運ぶポーターとして働くジャズ・バシャラは、密輸入を通じて懇意にしている大物実業家のトロンドからある依頼を受ける。それはある利権の行方を左右する陰謀に繋がっていた。
 映画化もされたサバイバルSF小説『火星の人』のウィアーの新作。今度の舞台は月、そして主人公はアラブ系女性。主人公が頭を使うことを止めない、事態を好転させることを諦めない所は共通している。ただ一人ぼっちで奮闘する前作に対し、ジャズは自主独立ではあるものの、仲間の手を借り事態を打開していく。女性であるということを過剰に感じさせないフラットな語り口(~だわ、~よという口語の語尾処理はもっと少なくていいと思うけど)と周囲との関係性がいい。月面都市の市民性がちょっと開拓民的というか、ローカルルールが強い自治区みたいで、よく言えばおおらか。ジャズが密輸でお金を稼いでいるのも、きわどい依頼をさせるのもそういう風土ならではのものだし、彼女が仲間の助けを得られるのもその気風故でもある。
 物理的な制約、システム上の制約、そして利権の真相等、月面という舞台設定がジャズの前に立ちはだかる問題と直結しており、一気に読ませる。既に映画化決定しているそうだが、確かに映像化向き。ある程度知識のある人だったら書かれている状況がすんなり理解できる(描写自体は平易だし、かなり工夫されていると思う)んだろうけど、宇宙開発素人には具体的にイメージしにくい部分もあるので。

アルテミス(上) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
2018-01-24


アルテミス(下) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
2018-01-24

『ベロニカとの記憶』

 60歳を過ぎ、小さなカメラ店を営業しつつ引退生活を送るトニー・ウェブスター(ジム・ブロードベント)の元に、弁護士からの手紙が届く。40年前に別れた当時の恋人ベロニカ(シャーロット・ランプリング)の母親が亡くなり、遺品として日記を残しているというのだ。元恋人の母親から遺品を残される理由がわからず困惑するトニー。しかもベロニカは母の遺品をトニーに渡すことを拒んでいるというのだ。トニーの青春時代の記憶が呼びさまされていく。原作はジュリアン・バーンズの小説『終わりの感覚』、監督はリテーシュ・バトラ。
 私にとっての原作の面白さが、映画では大分スポイルされてしまったように感じた。私は原作小説を好きなので残念に思ったけど、逆に映画の方が好ましいと思う人もいると思う。ラストの味わいが、映画の方が大分優しいのだ。原作は過去との向き合い方に対してかなり辛辣で、取り返しのつかなさの方が強調されていたように思う。小説(文章)の方が、記憶の欺瞞というシチュエーションに向いた表現方法であるという面もあるだろう。映像の方が客観性が高くなるんだなと改めて認識した。本作は、トニーの主観の身勝手さについての物語とも言える。
 トニーと会話をしていた元妻が、「そういうことじゃないのよ」と彼に言うシーンがある。トニーはおそらく、何度となく「そいういうことじゃないのよ」と言われてきたんじゃないか、そして彼自身は言われていることにぴんとこないままだったんじゃないだろうか。
 トニーは悪い人ではないしバカでもないが、自分で思っているほどには利口ではなく、他人の気持ちや状況に対していまひとつ考えが浅い。そして考えが浅い故に一言多い。その一言、面白いつもりかもしれないが全然面白くないぞ!元妻の元に押しかけるのは、見ていてちょっと嫌な気分になった(そういう関係性の夫婦だったんだろうし元妻も彼の振る舞いをある程度許容しているというのはわかるのだが)。相手に歓迎されていない、相手が話を聞きたがっていないという発想はないんだなと。何かと言い訳がましいのも、基本的に自分本位だからだろう。後ろめたさをつい正当化したくなる気持ち、わからなくはないがみっともないからなぁ・・・。



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