3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『幻の女』

ウイリアム・アイリッシュ著、稲葉明雄訳
 町をさまよっていたヘンダースンは、バーで奇妙な帽子を被った女と出会い、気晴らしに彼女をレストランと劇場に誘う。お互いに名前も聞かずに別れたが、帰宅したヘンダースンを待っていたのは妻の死体と警官、そして殺人容疑だった。ヘンダースンはアリバイとしてバーの女の存在を主張するが、バーテン始め、誰もその女を覚えていないと言うのだ。
 本作、出だしの文章のかっこよさ(もとい気障さ)で有名だが、大どんでん返し系ミステリとして面白かったんだな・・・。実は以前に読みかけたものの頓挫していたことを半分くらい読んでから思い出した。なぜ頓挫したかというと、おそらく証人探しの流れがご都合主義的で強引に思えたからだろう。ただ、終盤になるとそのご都合主義込でなるほど!というサプライズが待っている。正直強引なことは強引なのだが、力技で成立させてしまっている。誰も自分の言うことを信じてくれない、しかも他人からの証言が自分の記憶をいちいち否定していくという悪夢のような設定と、死刑のタイムリミットが迫る中での証人探しというスリリングさで読ませる。プロットの力技感と文章のスタイリッシュさのミスマッチに味があった。ところで、当時の女性にとって帽子ってそんなに重要なファッションアイテムだったんですかね・・・。他人と同じ帽子を被るなんて屈辱的!というテンションがいまいちわからない。

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))
ウイリアム・アイリッシュ
早川書房
1976-04-30

幻の女 [DVD]
フランチョット・トーン
ジュネス企画
2010-05-25

『スパイダーマン ホームカミング』

 15歳の高校生ピーター・パーカー(トム・ホランド)はクモのような特殊能力を持ち、スパイダーマンとしてご近所の平和を守っていた。アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)から特性のスーツをもらい、ベルリンでアベンジャーズ同士の闘いに参加したピーターは、自分もアベンジャーズの一員になれると期待するが、トニーはピーターを子ども扱いして諌める。彼に認められたいピーターは、スターク社を敵視する謎の武器商人バルチャー(マイケル・キートン)を一人で追い始める。監督はジョン・ワッツ。
  私はサム・ライミ監督によるスパイダーマン三部作(ピーター役はトビー・マグワイヤ)が大好きなのだが、本作はそれとはまた違った、非常にティーンエイジャーらしいスパイダーマンで、これはこれですごく楽しかった。実際ピーターの設定年齢は下がっているのだが、言動が実に年相応。頭はいいのに思慮が足りなくて、やる気が空回りし失敗する(だがへこたれない)。注目されたいが自信がない、何者かになりたいが何者になれるのかわからない、誰かに認めてもらいたくてしょうがないというエネルギーが溢れている。ピーターは学校での自分はダサい奴で、スパイダーマンとしての力がなくなったら何もなくなると思っている。しかし実の所、彼の頭の良さは同級生も認める位には際立っており、これだけでも将来有望と言えるだろう。親友だっているし、両親はいないがメイおばさん(マリサ・トメイ)から深く愛されている。スパイダーマン部分なくてもアドバンテージ高いじゃん!と客観的には見える。これが必ずしも自己評価に繋がらない、自分を客観視できていないところがティーンっぽいし、学園ものっぽいなぁと思った。学校でのヒエラルキーって、勉強のでき具合と必ずしも比例しないもんね・・・。まずはルックスがそれなりでコミュニケーション能力高い人が有利だからなぁ・・・。
 スパイダーマンが活躍するのは「地元」であり、「隣人としてのヒーロー」というコンセプトであることが、最後まで一貫している。ピーターの最後の選択は、そういうことなのだ。これはアイアンマンに対するカウンターにもなっており、アベンジャーズシリーズと隣接しつつもちょっとスタンスが異なる作品なんだなとわかる。アイアンマン=スタークやソーは多分、弱い者・持たざる者に寄り添うことは出来ない(何しろ2人とも「持ってる」状態しか経験してないからな・・・)。本作の敵役であるバルチャーはスターク(が象徴・所属するもの)への強い反感・敵意を抱いているが、ピーターはむしろバルチャーと同じ側、市井の人間の側で生きてきた存在だ。だからこその闘いの結末ということだろう。スパイダーマンは彼の「隣人」でもあるのだ。
 今回、スパイダーマンのお目付け役、保護者役的なアイアンマン=スタークだが、裏側から見るとスタークが父親をやろうとする(が頓挫する)物語にも見える。スタークの大人として振舞い、勢いづくピーターを自重させようとする行動は概ね妥当ではあるのだが、どうも扱いあぐねている感が否めない。元々、スタークの対人スキルはあまり高くないということはアイアンマンシリーズで露呈しているが、年少者の振る舞い方のモデルが頭の中にない人なんだろうなと。逆に、相手が子供ではないと認識すればもっと適切な距離の取り方が出来るのかな。

スパイダーマン トリロジー ブルーレイ コンプリートBOX [Blu-ray]
トビー・マグワイア
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-07-05

アメイジング・スパイダーマン シリーズ ブルーレイ コンプリートBOX [Blu-ray]
アンドリュー・ガーフィールド
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-07-05

『空白を満たしなさい(上、下)』

平野啓一郎著
 勤務先の会議室で目覚めた土屋徹生は、自分が3年前に社屋の屋上から転落死したことを知らされる。世間では「復生者」と呼ばれる死者の生き返り現象が起きていたのだ。徹生は自殺と見なされていたが、妻子を愛し新商品の開発にも成功していた自分が自殺するなど信じられず、死の直前の失われた記憶と死の真相を突き止めようとする。
 著者の小説を読んだのは本当に久しぶりなのだが、あれ?こんなに小説の下手な作家だったっけ・・・。いやいやそんなことないはずと思いつつ文庫の上巻を読み、巻き返しがないまま下巻に突入、最後まで上手くなかった。えっ平野先生に何が起きたの・・・。ちょっとびっくりするくらいの小説としての味わいのなさ、スカスカ感である。本作、著者の考案する「分人」という考え方(これ自体は悪くないが当たり前と言えば当たり前のことを言っているなと思った)を組み入れた作品なのだが、「分人」を説明しようとする側面が強すぎて、登場人物の行動と状況の説明文のようになっており、出来の悪い学習漫画みたいだ。小説には、作家の考えを表現するという側面はあるが、それだけでは貧しい小説になる。作家が予想できなかった部分が膨らんでくる、作家の意図を離れた部分が生じてくることにこそ豊かさがあると思う。




『眠る狼』

グレン・エリック・ハミルトン著、山中朝晶訳
  祖父と確執により10年前に故郷を離れた陸軍兵・バンの元に、その祖父からの手紙が届く。プロの泥棒として腕の立った冷静な祖父の言葉とは思えない、「もどってきてくれ」とのメッセージに違和感を感じたバンは、休暇を取って実家を訪ねる。そこで彼が目にしたのは、銃撃を受け意識を失くした祖父の姿だった。
 アンソニー賞、マカヴィティ賞、ストランド・マガジン批評家賞最優秀新人賞受賞作だそうだが、確かに新人の作品でこの面白さはすごい。帰省したらいきなり祖父が撃たれているという導入部で一気に引き込まれ、時間制限のある(バンは10日間の休暇が終わると軍に戻らなければならない)犯人探しが行われる現在、祖父が何をやっていたのか、なぜ2人は決別したのかという過去とが並列して描かれ、犯人との対峙で結びつく。途中少々もどかしいが、いい構成だと思う。ある人物のバンに対する態度にずっと微妙な違和感を感じていたのだが、それがこういう形でつながるのか!というすっきり感も。バンと祖父はいわゆる「仲がいい」家族ではないしお互いに反目する部分は多々ある。しかし、2人の間には好き嫌いを越えた、根っこの所での信頼と理解があるのだ。ある人物との関係は一見円満で愛と信頼があるように見える。しかし、根底では理解しあっていない。お互いに相手を見間違っているのだ。

眠る狼 (ハヤカワ文庫NV)
グレン・エリック・ハミルトン
早川書房
2017-04-06

ネバー・ゴー・バック(上) (講談社文庫)
リー・チャイルド
講談社
2016-11-15

『トランスフォーマー 最後の騎士王』

 宇宙へと去ったオプティマス・プライムは故郷のサイバトロン星で、創造主と呼ばれる存在と遭遇。創造主は地球を侵略しサイバトロン星を再生しようとしていた。地球ではオートボット達は人類の敵とみなされ、彼らをかばったことでお尋ね者となったイェーガー(マーク・ウォールバーグ)は、オートボットのバンブルビーらと身を隠していた。彼らの前にオプティマスが姿を現すが、彼は人類と敵対し、地球に隠されたタリスマンを奪おうとしていた。監督はマイケル・ベイ。
 IMAX3Dで鑑賞。本作のIMAX3Dはベイ監督が自信を持っているだけのことはあって、確かにクオリティが高い。特に後半、奥行き、高低が強調されるシーンが増えるとそれがよくわかる。むしろ、そこのみが見所と言ってもいいくらいなんだけど・・・。正直、お話は(毎度のことだが)そんなに面白いわけではない。
このシリーズ、作品数を重ねるにつれ、唐突に新しい設定をぶち込んでくるのだが、今回はそれが特に顕著。導入部分はいきなり中世イギリスのアーサー王伝説から始まり、これ本当にトランスフォーマー?という感じ。マーリンの杖がオートボットの遺産だった!オートボットと協力する秘密結社があった!という設定なのだが、何だか段々、当初の設定からずれてきているような・・・。そんな秘密結社があったならシリーズ前作までの話、大分違うものになってきそうなんだけど・・・。
 ドラマとしては人間パートが大分退屈だった。このシリーズにドラマの面白さはそんなに期待していないのだが、毎度のことながらエピソードが団子状にだらだら続く感じで緩急に乏しい。映像としては見所はたくさんあるのだが、その映像に寄り添う物語には無頓着。また、とってつけたようなセリフやシチュエーション、特に男女のやりとりのずさんさが気になった。まあ、ベイ監督作品にそういう部分のクオリティは期待していないですが・・・。
 ドラマは平坦だが、映像に関しては毎回ちゃんとアップデートされており、ベイ監督の勤勉さがうかがえる。オートボットの見せ方、見得の切らせ方が毎回上手くなっているんだよなー。今回も、オートボットのファンならここを見たいであろう、変身時の可動部分をしっかり見せてくれるし、スローモーションの使い方もやたらめったら使うのではなくここぞという所で使っている(まあムダに使っている部分もあるが)。今回はバンブルビーに新機能が加わり、「組み立てていく」感を更に味わえる。

トランスフォーマー/ロストエイジ [Blu-ray]

マーク・ウォールバーグ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2015-06-10


『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』

 海辺の町・杜王町に母と祖父と住む高校生の東方仗助(山崎賢人)は触れることで他人のけがや壊れた物を修復する特殊能力を持っていた。彼を訪ねてきた「甥」で同じような能力を持つ空条承太郎(伊勢谷友介)によれば、その力は「スタンド」だと言う。仗助と承太郎は、杜王町で続発している変死事件はスタンドによるものではないかと気づく。原作は荒木飛呂彦の大ヒット漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部。監督は三池崇史。
 漫画原作映画ブームなのかもしれないが、いくらなんでもハードル高すぎないか、誰も幸せになれなさそうな気配がぷんぷんするわ・・・と思っていたのだが、予想より全然面白かった。侮りまくって申し訳ない・・・。原作に沿った登場人物のビジュアルは実写にするとなかなか素っ頓狂だし、スタンドという漫画ならではの設定はあるのだが、映画としての見せ方は意外とスタンダードで、案外奇をてらっていない印象。なので、原作をなんとなく知っている程度なら十分楽しめるのでは(とりあえずスタンドの概念を知っていれば大丈夫)。また、CGのスタンドにしろ、衣装にしろ、あんまり安っぽくない。ちゃんと「映画」をやるぞ!という意気込みが感じられる。ただ、わざわざイタリアでロケをした意味はあまりなかった気がする。いかにも観光地という絵にかいたような街並みなので逆に嘘っぽい。なんだったら舞浜とか熱海とかのほうが説得力あったかもなぁ・・・。
 本作、原作のうち片桐のエピソードと虹村兄弟のエピソードを映画化しているのだが、エピソードの分量と内容、組み合わせ方が映画のボリュームにちょうど良かったというのも勝因かと思う。また、片桐編で仗助の家庭と家族に対する思いが表明され、虹村兄弟編がその反転になっている。仗助は言動は不良だが、家族に愛されいい環境で育っていることが言動の端々からわかる。虹村兄弟はそういう家族になる可能性を奪われてしまった人たちだ。しかしそれでも「家族」だった時間がある。兄・億泰(岡田将生)の行動は非情で利己的ではあるが、悲哀も漂うのだ。演じた岡田は、本作出演者の中では一番好演だったのではないかな。セリフの発声が案外しっかりしているので、聞き取りやすい。
 このシリーズ、問題は二章以降だろう。登場人物が結構増えるし、枝葉のエピソードも多いので、原作をどの程度アレンジしてくるか気になる。ちょっと大変そうだよね・・・。

『ダイ・ビューティフル』

 長年の夢だったミスコンで優勝したトリシャ・エチェバリア(パオロ・バレステロス)は、突然死してしまう。トリシャは生前、葬儀では毎日メイクを変えてくれと親友に頼んでいた。彼女は裕福な家庭の一人息子として生まれたが、トランスジェンダーであることを認めない父親に家を追い出され、自分らしく生きようとしてきたのだ。監督はジュン・ロブレス・ラナ。
 トリシャの人生(と葬儀)の様々な局面を行ったり来たりする、少々目まぐるしい構成。時間の流れ通りに進行する葬儀と、過去の様々な局面との行ったり来たりであれば、もう少し整理された印象になるのだろうが、葬儀のシーンも時系列通りじゃないんだよなー。記憶はそもそも秩序立っておらず芋づる式に呼び起されるものだというなら、この構成で間違いではないんだろうけど、ストーリーの見せ方としてはちょっともたついている。しかしそれが疵にならないくらい、大変面白かった。1人の人間が自分の人生を生きようとした物語として、ぐっとくる。
 トリシャの父親は彼女をあくまで「息子」として見ているので、彼女のセクシャリティには全く理解がない。彼女が死んだ際も男の体に「戻して」葬儀をしようとする為、トリシャの友人たちは猛反発する。姉は彼女にもう少し同情的だが、やはり理解はできない。また、トリシャはなぜか恋愛運が悪く、イケメンと付き合ってもすぐに浮気されたり相手が訳ありだったりする。肉親の愛とパートナーとの愛には恵まれない人生なのだ。
 しかし彼女には、それを補って有り余る友人たち、そして養女からの愛がある。子供の頃からの親友バーブ(クリスチャン・バブレス)はトリシャを励まし笑わせ、時に彼女の代わりに怒ったり闘ったりもする(ちょっとだけ登場するバーブの母親のおおらかさも素晴らしい)。手厳しく彼女にはっぱをかける“ママ”やトランスジェンダー仲間たち等、彼女の周囲には人が絶えない。恋愛は上手くいかないし血のつながった家族とは絶縁状態だが、トリシャはそれに代わるような愛し愛される人たちを獲得している。彼女は恋愛にしろ養子を迎える流れにしろ、愛することをためらわない勇気がある人なんだなとわかるのだ。それが、周囲に人を集めるのだろう。
 葬儀での日替わりメイクは見事で、確かに不謹慎かもしれないけどSNSで拡散したくなるなと笑ってしまった。有名人のそっくりメイクというコンセプトなのだが、確かにものによっては完成度高い。

キンキー・ブーツ [DVD]


ジョエル・エドガートン
ワーナー・ホーム・ビデオ
2012-02-08


プルートで朝食を [DVD]
キリアン・マーフィー
ポニーキャニオン
2006-12-22

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

ピーター・トライアス著、中原尚哉訳
 第二次大戦で日本とドイツが勝利し、アメリカ西海岸が日本の統治下にされた「日本合衆国」。検閲局に勤める石村大尉は、特高の槻野課員の訪問を受ける。彼女は石村のかつての上司である六浦賀将軍の行方を追っていた。高名なゲーム開発者だった六浦賀は、アメリカが戦争に勝利した世界を舞台とするゲーム「USA」を密かに開発し、アメリカ人抵抗組織に協力している疑いを掛けられていた。
 表紙絵の巨大ロボと口絵のコンセプトアートにはテンションが高まるが、実はこれ、表紙絵詐欺と言ってもいい。ロボは登場するが、それがメインというわけではないのだ。ロボが活躍するシーンの描写、そしてパイロットの言動には確かに熱くなるが・・・。本作はむしろフィリップ・K・ディック『高い城の男』を引き継ぐような歴史改変SFとして、所属する国と民俗に翻弄される人々を描いており、爽快感は薄い。むしろ息苦しく、悲観的だ。実際の戦中・戦後のアメリカでは日系人が迫害されたわけだが、本作では日本「以外の」血を持つ人たちが差別される。戯画的な「皇国」や日本軍の情景は露悪的でもあるが、どこの国であれ、軍国化すると似たり寄ったりな醜悪さを見せるものなのではとも思える。そして、自由と平等をうたうアメリカ人抵抗組織にしても、どこかファナティックで決して正義の味方的な描き方はされていない。もし彼らが権力を持ったら似たりよったりな醜悪さを見せるのではないかという、距離感がある。石村の行動の底にあったものが明らかになる最後のエピソードは、そういったイデオロギーや民族、国家を超えたところにあり、だからこそやりきれないのだ。
 なお、日本的な部分はむしろ、巻末の解説でも触れられているようにB級グルメ等の描写に色濃い。なぜそこにそんなに力を入れる?と首をひねったくらい。石村がB級グルメフードに対して妙に饒舌なのもそれっぽいなぁと思ったが、これは万国共通なのかな・・・。



高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
フィリップ・K・ディック
早川書房
1984-07-31


『本屋さんのダイアナ』

柚木麻子著
 ギャンブラーだったという父親に付けられた「大穴(ダイアナ)」という名前がコンプレックスとなっていた少女は、同級生の彩子に『赤毛のアン』に出てくる「腹心の友」の名前だと言われた。育った環境も見た目も正反対な2人は、本がきっかけで親友になる。
 2人の少女が小学生から中学生、高校生になりやがて大人になっていく過程を描く成長物語。2人とも読書が大好きで、様々な本の題名が登場するところが楽しい。生きていく中でなぜ本、ことに小説が必要なのかということが描かれており、読書好きは共感するのでは(作中作があんまりおもしろくなさそうなのが難点なのだが・・・)。この切実さは、分からない人にはずっとわからない(そしてその方が生きやすい)のかもしれないけど・・・。
 ダイアナは洗練され知的な彩子とその両親を素敵だと思い憧れるが、彩子は彩子で型破りなダイアナと母親の自由さ(と彩子には見える)に憧れる。ダイアナも彩子も実は美形で、それぞれの親にはそれぞれ違った良さと難点があることが読者には徐々にわかってくるのだが、2人にはそれは見えていない。2人はあることがきっかけで絶縁状態になってしまうが、その原因もまたお互いにお互いのある部分が見えていなかったことによるものだと思う。しかし、そうであっても友情があったことには変わりはなく、時間を経ても、よみがえるものもある。2人の仲立ちをするのがやはり本だという所がにくい。なお、ダイアナも彩子も成長するにつれ、様々な問題、トラブルに直面していく。特に彩子が直面するものが、彼女が女性だから生じる(彼女に責任があるわけではなく、女性だからいけないということでもない)ものだというのが辛い。彩子は聡明でしっかりした人のはずなのに、そういう人でも世間がこうだと思い込んでいる「女性」としての立ち居振る舞いに準じてしまうものなのかと。そういうものから自由になる手がかりとなるのもまた、友人であり本であるのだ。


赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)
ルーシー・モード・モンゴメリ
新潮社
2008-02-26



『ザ・マミー』

 
(一部訂正しました)
古代エジプトの王女アマネット(ソフィア・ブテラ)は、次期女王にするという約束を破った父王を恨み、死の神セトと契約して父王とその妃、生まれたばかりの王子を殺害。その報いとして生きたまま棺に葬られ封印された。そして2000年後、米軍兵のニック・モートン(トム・クルーズ)と考古学者ジェシー・ハルジー(アナベル・ウォーリス)は古代メソポタミアにあたる現代の中東地域で石棺を発見。輸送機でイギリスに持ち返ろうとするが、トラブルにより墜落し、石棺は行方不明になってしまう。監督はアレックス・カーツマン。
 なんだか大味なストーリーだなー、第一これは「マミー」ではないんじゃ・・・(言うほどミイラが活躍しない。そもそもミイラというよりもゾンビなのでは)と思っていたら、監督はトランスフォーマーシリーズ(『トランスフォーマー』『トランスフォーマー/リベンジ』)の脚本書いた人だったのね・・・うん、じゃあしょうがない!世間ではあまり評判芳しくない本作、確かにストーリーが直線的でキレには乏しいのだが、私はそんなに悪いとは思わなかった。全ての映画を気合入れてすごく楽しみにして見に行くわけではないので、空き時間にぷらっと見に行って何も考えずに見られる娯楽作って、それなりに価値があると思う。非難されているとしたら、本作がミイラが出てくるホラー映画ではない、あまりドキドキしない(だからぼーっと見るにはちょうどいいんだけど)という所ではないか。
 とは言え、トム・クルーズが主演していると他の部分がぐだぐだでも「トム・クルーズ映画」として立ち位置が定まるので、やはりトム・クルーズは偉い。本作ではヌードまで披露して頑張っている。近年はコミカルな顔芸も見せているトムだが、本作もコメディっぽい演出が結構多い(劇場内で殆ど笑いが起きていなかったのが痛いが・・・)。冒頭のドタバタ展開はジャッキー・チェンの映画みたいだった。演じるニックというキャラクターは、取り柄が顔だけなくそったれとして登場するので、最近のトム主演作としては珍しいパターンなのかもしれない。
しかしトム・クルーズがかすむ勢いでソフィア・ブテラが最高だった。アマネットは悪い!強い!美しい!の三拍子が揃った悪役なのでもっと見たかったなぁ。絶対後悔してなさそうなところがいい。

ミイラ再生 [DVD]
ボリス・カーロフ
ジェネオン・ユニバーサル
2012-10-24

プレスリーVSミイラ男 [DVD]
ブルース・キャンベル
クロックワークス
2007-05-25


『手を失くした少女』

 東京アニメアワードフェスティバル2017のコンペティション部門・長編アニメーショングランプリ受賞作品。監督はセバスチャン・ルドバース。グリム童話の「手なし娘」を下敷きに、デッサン、ペインティング風の線と色彩で構成されたアニメーション。
 アンスティチュ・フランセ東京での特別上映会で鑑賞したのだが、本編上映前に監督からの本作に対するコメント映像が15分ほどあった。それによると、作画は1人で行っており、製作スピードはかなり速かったそうだ。アニメーションというと、最初に絵コンテを切ってタイムシートを作ってそれに合わせて原画を描いていくものなのだろうが、本作の場合は、監督の頭の中におおまかなストーリーと映像の流れがあり、とにかくどんどん原画(監督によると“デッサン”)を描いていく。描いては修正し、また描き足して修正し、という繰り返しだったようで、ドローイングがそのままアニメーションの原画になっているようだ。絵のタッチも、完成した絵に拘らず、あえて線が途中で切れたり大まかなアウトラインのみの絵を繋げることで、今線を描いているような臨場感が生まれている。線のない部分も見る側は頭の中で補完して見ていることに気付き、この手法で通すことにしたのだとか。製作をスピードアップできる、かつ製作時の線の勢いをそのままアニメーションとして活かせる手法だと思う。躍動感があって、とても美しい。
 主人公の娘が能動的で、父親からも巡り合った王子からも離れて自力で生きようとする所は、今日的な造形でこれもよかった。彼女が王子からもらった金の義手を捨て、手が不自由なら不自由なりに生活を築いていく姿は、地に足の着いた感がある。果物にかぶりついたり、口も使って畑を耕し種を植える姿は、屋敷で王子を待つ生活よりもずっと生き生きとしている(このパートの作画が素晴らしいと思った)。また、王子が一人の人間として彼女についていくという結末も今の作品らしいなと思った。グリム童話的な血なまぐささや土着の臭いも濃いが、ラストは清々しい。なお本作の悪魔、やたらと諦めが悪くほぼストーカーである。聖なる力や奇跡によって撃退されるのではなく根負けして去るというのが、少女のタフさを際立たせる。

初版グリム童話集(2) (白水uブックス 165)
ヤーコプ・ルードヴィヒ・グリム
白水社
2007-12-12



『アリーキャット』

 元ボクサーで今は警備会社のアルバイトをしている朝秀晃(窪塚洋介)は、行方不明の野良猫・マルを探していた。保健所でマルを抱いた男を見つけ声をかけるが、その男・梅津郁巳(降谷建志)はこの猫はリリーという名前で自分が飼うんだと言い張る。猫を介してマル、リリーと呼び合うようになった2人は、元恋人からストーキングされている土屋冴子(市川由衣)のボディーガードの仕事を秀晃がしたことがきっかけで、彼女を東京まで送り届けることにする。監督は榊英雄。
 窪塚と降谷という、ある時代のアイコン的な2人の共演。私は「ある時代」ど真ん中の世代なので、感慨深くもあり懐かしくもあり。本作の雰囲気自体、90年代のVシネとか漫画とかを彷彿とさせるように思う。どこがどう、と問われると答えにくいのだが、全体の設定のふわっとしているところとか、いきなり黒社会や政界が絡んでくるところとかかな・・・。
 とは言え懐古趣味という感じは全然しないし、窪塚も降谷も現役感がしっかりある。窪塚はここ2,3年でやっぱりスター感あるなと思うことが増えたし、演技の技術も明らかに伸びている(何せスコセッシ監督作に出演したしなー)。また降谷は、ここにきてそんな直球のあざとさ見せちゃう?!可愛い感じ出しちゃう?!という意外さを見せている。こういう人懐こいわんこ系キャラがハマるとは・・・。諸々可愛すぎてやばかった(私が)。
 秀晃も郁巳も決していわゆる勝ち組、社会の強者というわけではないし、清廉潔白で正義の味方というわけでもない。郁巳は人のいいお兄ちゃんと言う感じではあるが、秀晃はボクサー時代に諸々やらかしており決して褒められたものではなかったことが、徐々にわかってくる。そんな彼らが、なけなしの勇気と意地でふんばる姿がかっこ悪くもいじらしい。冴子親子に自らの生い立ちを重ね、自分の過去を振り切るかのように無謀な策に出る秀晃と、そんな秀晃への共感からか憧れからか、一方的に彼を鼓舞する郁巳。特に郁巳の能天気さ、無邪気さは時に秀晃をイラつかせるものなのだが、周囲の人たちを和ませ、徐々に彼らの拠り所になっていったようにも思えた。
 楽しく見たが、作中の女性の処遇が暴力にさらされるものな所、女性登場人物の造形がわりと単純な所は気になった。一方的な暴力は、フィクションの中とは言えやっぱり見ていてあんまりいい気はしないので(こういう所も古さといえば古さなのか)。

沈黙-サイレンス- [DVD]
アンドリュー・ガーフィールド
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-08-02




『ハートストーン』

 アイスランドの漁村で暮らす少年ソール(バルドル・エイナルソン)とクリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)。ソールは大人びた少女ベータに夢中だった。クリスティアンはソールの後押しをしつつも、彼に対する特別な思いをもてあましつつあった。監督はグズムンドゥル・アルナル・グズムンドン。
 思春期の少年少女らの、同性の友人との濃密な関係、自分のセクシャリティに対する戸惑いを描いた作品だが、何よりも強く印象に残ったのは、小さな町の息苦しさだ。ソールとクリスティアンが暮らしているのはいわゆる田舎の小さな漁村で、周囲は海と山ばかり。隣の家まで何キロ離れているんだと言うような地域だ。当然人口は少ないので、村人はほぼ全員顔見知り。更に人数が少ない子供は全員顔と名前が知られており、子供たちのたまり場になる場所も限られているので、カフェに行けば同級生がいるし、クラブにもぐりこむと母親が地元の男性と踊っている。人づきあいが苦手な人、周囲から浮いている人にとってはかなりしんどい環境だろう。誰にも会わずに一人でふらふらしたいなと思ったら、野山をふらつくくらいしかやることがない。安心して自宅にいられる環境ならいいのだろうが、ソールは姉2人と同室、クリスティアンは父親と折り合いが悪く、家にも居辛い。2人は度々、つるんで外を歩き回っているのだが、要するに行く場所がないんだなぁと。2人の仲の良さは村の子供たちからも揶揄されており、他の子供たちと顔を合せるのも面倒くさいのだ。
 小さいコミュニティの息苦しさを感じると同時に、外部からの情報が入ってきにくいことの息苦しさ、世界の狭さも強く感じる。子供達だけでなく、ソールの母親のように大人でも息苦しく感じる人がいる。本作の時代設定は現代よりも少し前、まだインターネットが普及しておらず、携帯電話も登場していない頃。子供が「外の世界」の情報を得るにはテレビや雑誌しかなく、セクシャリティに関する情報等はなかなか入手できない。自分のように悩んでいる人は他にもいるのか、どういう受け止め方をすればいいのかという判断材料が乏しいのだ。舞台となる風景は広大なのに(アイスランドの地形ってやっぱり独特だよなーと思う)のに、描かれる世界は閉塞的で風景の広さと反比例していく。ロケーションが開けているだけよけいに「ぼっち感」が強まるのだ。
 クリスティアンはソールよりもやや大人で、自分のセクシャリティにも、周囲がそれになんとなく気付いていることも自覚的だ。それに比べてソールの悩み方はまだまだ子供っぽく単純(女の子とセックスした翌朝のすがすがしく達成感漂う表情、ほんと腹立つわ・・・)。2人の気持ちの並走できない感が辛い。冒頭から破局への予感に満ちていてハラハラしっぱなしだった。2人とも、自分の心を持て余して自爆してしまいそうなのだ。

馬々と人間たち [DVD]
イングヴァル・E・シグルズソン
オデッサ・エンタテインメント
2015-06-02


ひつじ村の兄弟 [DVD]
シグルヅル・シグルヨンソン
ギャガ
2016-07-02

『ホリデー・イン』

坂木司著
元ヤンでホストの沖田大和と突然彼の前に現れた小学生の息子・進。彼の出現により宅配便会社で働くようになった大和と進の生活を描く『ワーキング・ホリデー』シリーズから、スピンオフの短編集。これまでの作品で登場した脇役たちが主役を務める。
スピンオフといっても、本編を読んだのが大分前なので誰が誰だったか記憶があやふや・・・。読んでいるうちに、そういえばこんな人いたな、こういう人だったなと思いだし始めた。著者の作品は基本的に人に対する優しさ、信頼があるので、ちょっと難ありだったり冷たい面がある人でも、その裏にはこんなものがあるんだよとどの短編でもそっと提示してくる。さらっと読める、というかさほど読み応えはないのでファンに対してのおまけ的な短編集か。とはいえ、進が大和を訪ねていった経緯の話などは、母親の対応含めちょっといい。改札からは出ないとか、ちょっとした拘りに説得力がある。

ホリデー・イン (文春文庫)
坂木 司
文藝春秋
2017-04-07





ワーキング・ホリデー (文春文庫)


『バルコニーの男 刑事マルティン・ベック』

マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー著、柳沢由実子訳
ストックホルム中央の公園で、暴行され下着を奪われた少女の死体が発見された。彼女は前年、不審な男に話しかけられたことを警察で証言していた。その2日後、別の公園でまた少女の死体が発見される。果たして連続殺人なのか?公園で多発している強盗事件と関係はあるのか?刑事マルティン・ベックらは事件に取り組むが、手がかりは乏しく捜査は行き詰っていく。
角川文庫は、マルティン・ベックシリーズを新たに全巻発行する予定なのかな?だとしたらうれしいなー。本作はシリーズ4作目。スウェーデンの元祖警察小説、警察小説の金字塔と言われるだけのことはあり、安定した面白さがある。警察の捜査に焦点を当てた作品なので、いわゆるどんでん返しミステリ的な派手さはないのだが、地道な捜査の中で点と点がつながる瞬間や、「仕事」としての捜査のしんどさや刑事たちの人間模様等、地味ながら読ませる。慢性的な人員不足で全員疲労困憊というところには、先日読んだ『フロスト始末』(これはイギリスの話だけど)を思い出した。どこの国でも警察は大変だ・・・。また犯人がやったことは到底許されることではないのだが、本作の犯人の描写を読んでいると何だか悲しくなってきた。ここに至るまでに(特に現代であれば。本作は60年代の話だから)何か軌道修正することができたんではないかと。こういう人が行き着く先って、これしかないんだろうかとやりきれなくなる。なお、殺人犯対する恐怖から市民が自警団を結成して怪しげな人物を買ってに取り締まることに、ベックは強い憤りを見せる。ここに警官としての責任感と、司法国家とはどういうことかという自覚が見えた。

バルコニーの男 刑事マルティン・ベック (角川文庫)

マイ・シューヴァル
KADOKAWA
2017-03-25


刑事マルティン・ベックロセアンナ (角川文庫)
マイ・シューヴァル
KADOKAWA/角川書店
2014-09-25
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